【映画】海上48hours ―悪夢のバカンス―(ネタバレ感想)

映画『海上48hours ―悪夢のバカンス―』のポスター
(C)Vitality Jetski Limited 2021
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『海上48hours ―悪夢のバカンス―』のシーン
(C)Vitality Jetski Limited 2021

大学生5人組が酔った勢いにまかせて無断で水上バイクを乗り回すが、衝突事故を起こしてしまい、助けの来ない遥か海上沖を漂うことに。
友情で結ばれていたはずの彼らを待っていたのは、回避不可能な危機的状況の数々。
さらに、追い打ちをかけるように現れた獰猛なサメの餌食と化し、パニック状態に──。

2022年製作、イギリスの作品。
原題は『Shark Bait』で「サメの餌」という身も蓋もないタイトル。
『Jetski』という原題もある?ようですが、作中の冒頭では『Shark Bait』とタイトルが出ていました。

数あるサメ映画の中でも知名度の高い『海底47m』および『海底47m 古代マヤの死の迷宮』の製作陣が送る!という宣伝文句と、関連性を窺わせる邦題ですが、実質この2作とはほぼ関係がありません
上記2作も内容に繋がりはまったくなく、2作目は47mという数字はもはや何も関係がなくなっていましたが、原題は『47 Meters Down: Uncaged』で、監督も1作目と同じヨハネツ・ロバーツと、明らかに続編ポジションでした。

本作は、脚本のニック・ソルトリーズのプロットを見たプロデューサーのアンドリュー・プレンダーガストが映画化を進め、監督候補として『海底47m』シリーズのセカンドユニット監督を務めたジェームズ・ナンに白羽の矢が立った、という流れのようです。
つまり、ヨハネツ・ロバーツは何も関わっていないようですし、もともと『海底47m』のシリーズとして持ち上がった作品でもありません。

ただジェームズ・ナンなど製作陣が関わっているということで、日本では話題になりやすいような売り方をしたのでしょう。
若干疑問を抱きつつ、マーケティングの是非に口を出せる立場ではまったくありませんが、「だいたい2日ぐらい過ごしているから海上48hoursにしちゃおうぜ!」という判断はなかなかずる賢さを感じてちょっと好きです
ちなみに明らかに48時間は経過していないですね。

ついでにどうでも良い話としては、ジェームズ・ワン好きとしてはジェームズ・ガンが少しややこしいのですが、さらにジェームズ・ナンまで登場してしまいました。


さて、内容へ。
いきなり個人的な話ですが、最近『女神の継承』を筆頭に『MEN 同じ顔の男たち』『ザ・メニュー』など、考察的に考える要素の多い作品を続けて鑑賞し、考え疲れてしまっていたので、「頭空っぽにして楽しめる系の作品を観よう」と思って探したところ、選ばれたのが本作でした。
もともとずっと観たかったのですが、タイミング良くU-NEXTで見放題に。

そんな期待を裏切らず、もうこれ以上ないほど本当に頭を空っぽにして楽しめる作品でした

とにかく登場人物たちの頭空っぽ具合が半端じゃありません
こういった作品の登場人物たちは愚かで自業自得なのは当たり前ですが、そのレベルが本作は抜きん出ています。
刹那的な快楽に溺れるパリピなのはもちろん、不法侵入、窃盗、水上バイクの飲酒運転、果ては度胸試しごっこの末にクラッシュと、救いようがありません。
作品紹介ではどこでも「衝突事故」と表現されていますが、事故と言えないレベルの愚かさでした。

何より、冒頭で車椅子の男性による忠告があるところに、こだわりを感じました。
あんな不穏な感じで忠告してくるのは、もはや殺人鬼の出てくるようなスラッシャー映画の王道です
徹底して「ホラー映画の被害者像」のテンプレを踏襲している感がありました。
自分たちが出したゴミのせいで、清掃員にスマホでの太陽光の反射を気づいてもらえないシーンなどは、なかなかシニカルな演出。

そしてさらに明かされる浮気の真実。
あんな水上バイク上で痴話喧嘩をしているのは、傍から見れば滑稽でしかありません。
「酔っていたから」は明らかに心象をより悪くしそうな言い訳ナンバーワンでしょう。
『Shark Bait』の名に恥じず、心を痛めることなく彼らがサメの餌になる姿を堪能できました
というのは、命の選別でしょうか?

主人公ポジションのナットはまともなように描かれていましたが、相対的にそう見えるだけで、結局流されて水上バイクに乗ったりと、彼女も十分愚かでしょう。
忠告を無視したのもそうですし、彼女の「人のために」という姿勢が裏目っていたシーンも少なくありません。


そんなわけで、「やっちゃってくださいサメさん……!」と熱い眼差しで見守ることになるのですが、このサメさんがまたもったいぶるタイプで、なかなかしっかりと姿を見せてくれません
なので中盤まではもどかしさが高まりますが、後半は怒涛のラッシュを見せてくれます。

このように、純粋にサメの活躍を楽しむ作品かと思っていたのですが、脚本のニック・ソルトリーズによると、「私はスクリーン上で見たいものだけを書いた。友情が壊れていく変化の形をより深く描いた。というのも、観客はサメの立場に立つというよりも、若者たちが経験することに共感するはずだからなんだ。サメのアクションが重要なのは当然だが、サスペンス的な要素を春休みの若者たちの視点から見ることが肝だった」とのことでした。
ちょっと、個人的には若者たちに共感はできませんでしたが……。

それでも堅実なサメ映画なので、そんな彼らでも、いざサメが襲ってくると緊張感がありドキドキするのは面白いものです
サメの造形も、出番は少ないながらしっかりとしており、ネタ勝負のチープさ漂うサメ映画ではない真っ向勝負な点は『海底47m』シリーズに通ずるところがあり、好印象でした。
2024年3月現在、公式サイトがまだ見られるのですが、その中の「PRODUCTION NOTES」における「リアリティにこだわったサメのビジュアル」という項目の内容が、「地中海マルタ島での撮影」という項目の内容と同じ文章になってしまっており、サメのこだわりについて読めなくなっているのがちょっと残念。

堅実なサメ映画で純粋に楽しめたのですが、目新しさがほとんどなかったのは残念ポイントでした
もはや一つのジャンルと化しているサメ映画の中で、堅実な内容で目新しさを演出するのは難しいでしょうが、それほどたくさんサメ映画を観ているわけではない自分でも、他作品で見たことのあるようなシーンが目立ちました。
なので本作も、オリジナリティやインパクトには乏しく、少ししたら他のサメ映画作品と記憶が混ざってしまいそう。

全体的には、サメ映画である『ロスト・バケーション』と、高所に取り残されるシチュエーション・スリラー『FALL/フォール』の既視感が強めでした。
本作はマルタ島での撮影とのことで、海の美しさは惚れ惚れするほどでしたが、映像の美しさという点でも個人的には『ロスト・バケーション』が圧倒的。

ラストシーンも、もう1段階何かあるのかと思わせて何もなく、無事にナットだけが生き残るという終わり方で(最後に到着したのは無人島かもしれませんが)、印象は薄め。
キャラ的には、何だかんだタイラーが一番頑張ったのではないでしょうか。
トム(ナットの彼氏)のあまりのヘタレっぷりは笑ってしまうほどで、最後にかっこつけてもカバーしきれないものがありました。
公式サイトにおけるキャラ紹介では、「真面目な優等生 ナット」「陽キャな彼氏 トム」「体育会系マッチョ タイラー」「お調子者 グレッグ」というのも面白いですが、ミリー(金髪女性)のことは「マイルドビ◯チ ミリー」と紹介されており、間違いないですが容赦なさすぎて好き。

堅実なサメ映画とはいえ、「サメはそうそう人間を襲わない」という現実を完全に無視して、人間をいたぶり殺戮するサメの姿はとても良かったです。
サメ映画におけるサメについては『海底47m 古代マヤの死の迷宮』の感想で書いているので省きますが、本作のサメ、1匹だったのか数匹いたのかわかりませんが、完全に知能が高かったですね。
たぶん、主人公たちより知能が高かったです(言い過ぎ)。

あっちに行ったと見せかけてこっちを襲い、すぐに食べるのではなく、まずはガブリと歯形をつけて痛がり怯える姿を楽しむ。
完全に、捕食ではなく殺戮を楽しむサイコパスシャークでした
たぶんあのサメ、研究施設アクアティカ出身じゃないでしょうか(わからない方は『ディープ・ブルー』という名作サメ映画をご鑑賞ください)。

最後の水上バイクとの追いかけっこも「いやいやいや(笑)」という勢いで最高でした。
調べてみたところ、水上バイクの時速は70〜100km、ホホジロザメの時速は最大でも50kmほどとのことで、いくらエンジンが万全でなかった可能性があるとはいえ、あれだけかっ飛ばしていた水上バイクに追いつくのは従来のサメを超越した速さです。
やっぱりアクアティカ出身以下同文。

そんなわけで、自業自得であの状況に陥った登場人物たちの痴話喧嘩には苦笑失笑。
堅実かつ終盤は勢いのあるサメ映画で楽しめましたが、オリジナリティやインパクトは弱めで、他のサメ映画と記憶が混ざってしまうこと間違いなしな点は残念でした
でもやっぱり、刹那的なエンタメとして楽しい。
それこそが、サメ映画を筆頭とした動物パニックものの醍醐味です。

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