【映画】スイマーズ/溺れるトライアングル(ネタバレ感想・考察)

映画『スイマーズ/溺れるトライアングル』のポスター
(C)2014 GTH ALL RIGHTS RESERVED.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『スイマーズ/溺れるトライアングル』のシーン
(C)2014 GTH ALL RIGHTS RESERVED.

高校の水泳選手のタンとパースはライバル心を燃やす親友同士。
パースはどんなに頑張ってもタンに勝つことは出来ず、タンの恋人アイに密かに恋心を抱いていた。
しかしある日、アイがプールで突然自殺してしまう──。

2014年製作、タイの作品。
原題も『THE SWIMMERS』。

タイ語では『ฝากไว้…ในกายเธอ』で、翻訳にかけると「それをあなたの身体の中に残してください」となりました。
わかるようなわからないような。
エンディングの曲も「明日人生は変わるかもしれないけれど、私たちの愛は変わらない」「私の一部を残していくわ」「いつもあなたと共にいる」みたいな歌詞だったので、思い出というか、自分の存在を相手に残すといったような恋愛的な感覚なのでしょうか。

でもまぁ本作、全っ然そんな作品じゃなかったですけどね。
ドロッドロやん
エンディングも、思い出を胸に生きていこうみたいなめっちゃ爽やかな終わり方でしたけれど、
ドロッドロやん

そんな本作は、『カミングスーン』『ラッダーランド/呪われたマイホーム』に続く、ソーポップ・サクダービシット監督の3作目にあたります。
自分は最初に観てしまったのですが、続く4作目が『プロミス/戦慄の約束』
どの邦題の副題も絶妙に内容とズレているのですが、本作の副題「溺れるトライアングル」も、プールと三角関係がテーマなのは伝わりますが、うーん。
ここまで来ると『カミングスーン』も何か副題をつけてほしかったですね。


さて、個人的にハマっているソーポップ・サクダービシット監督ですが、これで現時点で日本のVODで配信されている4作品は制覇しました(5作目の『Home for Rent(原題)』は未配信)。
自分の中では、残念ながら本作は一番合いませんでした

その原因はおそらく、とにかくドロッドロの三角関係がメインで描かれた点でしょう。
いわゆる「胸糞作品」と呼ばれるような後味が悪い作品はむしろ好きですし、揺れる恋心や三角関係などを描いた恋愛モノが嫌いなわけでもありません(恋愛映画はほとんど観ませんが)。
ただ何というか、本作はあまりにも誰にも共感できなかったので、それが没入できないまま疲れてしまった原因かもしれません。
極端に言えば、ひたすら他人の痴話喧嘩を見せられているような感覚でした。

これまで観てきたソーポップ・サクダービシット監督の4作は、みんなそれぞれホラーの表現方法やテーマが異なっていました。
あえて似たような作品は避けて、毎回新たなテーマや表現にチャレンジしている印象があり、それが好きな要因の一つなので、合わなかった=マイナス評価なわけでありません。

本作は、過去2作に比べるとドラマ性が強い印象でした
『カミングスーン』はとにかくザ・ホラーといった印象で、2作目の『ラッダーランド/呪われたマイホーム』はそこに家族のドラマを絡めてきた印象。
そして本作はよりドラマ性が前面に打ち出されて、高校生3人がメインで描かれ、爽やかな青春とドロドロの愛憎劇という、いわば真逆の印象の要素二つの掛け合わせ。
なのでもちろん、この疲れるほどのドロドロ愛憎劇は意図されているものであることは間違いないので、単純に自分には合わなかった、というだけです。

さらに、本作ではホラー要素にも捻りが加えられていました
前2作は完全に霊ががっつり登場するオカルトものでしたが、本作においてはその点は微妙なところで、本当にアイの霊が現れていたのか、パースだけに見えていた幻覚のようなものだったのかは明らかにされません。

自殺したアイの霊による怪奇現象ではなく、実はパースがアイを殺していたという真相が、本作の肝の一つ。
いや、まぁ半分事故ではありましたが、その後の行動も含めて、パースが殺したと言って差し支えないでしょう。
「これまで通りの霊モノ」と思わせておいて「実はむしろ人怖系」だった点が本作の一番の特徴だったと言って良いはず。

パースが妊娠したかのように見せていたのも、「中絶を苦に自殺したアイの恨みで、その子がパースのお腹に宿ったのでは」と思わせるミスリードの一つでした。
その点を踏まえると、「あなたの身体の中に残す」といったようニュアンスのタイ語のタイトルも、そのようなミスリードを誘う意味合いが意図されているのかもしれません。

そのあたり、ミスリードさせつつ、かつ本当に心霊現象が起こっているのかパースの幻覚かも確定させないまま見せ続けていく演出はとても巧妙で見事でした
これまでのように霊や心霊現象の演出を工夫するだけでなく、卵を食べまくって吐くという気持ち悪さや、排出された胎児、男子高校生のパースが妊娠してしまったのではというような突飛な現象、お腹の中から押し当てている手の形が見えるなど、ボディホラー的な要素も組み込まれていました。
医学的なリアリティはさておいて、腹水貯溜という現実的な解答も用意されていました。

そのようなミステリィに近い要素は、これまでの作品でもなかったわけではありませんが、本作ではより強く打ち出されている印象を受けました。
ただ、どんでん返しとまではいかず、ミステリィがメインなわけでもありません。
冒頭のアイが転落死するシーン、あらすじで「アイが自殺した」と表現されていること、パース視点だったのに真相が隠されていたことなどは、ミステリィ小説だったら「ずるい」と言われてしまいそうですが、個人的に本作の演出は許容範囲、と言うと何だか偉そうになってしまいますが意外性を感じられて楽しめました。


しかしとにかく、そのような演出の巧みさを打ち消してしまうほどにパースがクズ男すぎました
『カミングスーン』『ラッダーランド/呪われたマイホーム』の主人公もなかなかにクズ男でしたが、パースはそれをさらに上回ってきました。
『カミングスーン』のシェーンが可愛い小物に思えてくるほどです。

誰かを好きになることに理由はないのでそこは良いのですが、奪って計画性のないまま避妊せず妊娠させた上に責任放棄したり、別れ話を持ちかけられたら暴力的に反応し、それで死なせてしまったので自殺に見せかけて誤魔化そうとしたり、といったあたりは救いようがありません。
アイも、最初から思わせ振りだったりまんざらでもない雰囲気も醸し出し、2人を振り回したところはかなりの魔性っぷり。
唯一、タンは被害者でかわいそうでもあり、ある程度まともでしたが、かなり直情型かつ粘着質でした。

最初のシーンでは、爽やかな3人、しかも美男美女だなぁと思っていたのですが、中盤以降はもう3人ともまったくそんな風に見えず、みんな性格の悪い顔にしか見えませんでした
内面の大事さを思い知らされる作品でもあります。

ちなみに、妊娠が発覚して「何とかする」と言うアイに対して、「中絶か?殺人と同じだぞ」というパースの台詞もなかなかクズい感じに思えますが、タイでは2022年まで中絶は基本的に違法行為であったので、中絶に対する抵抗感や倫理観は日本以上に強そうです。
というのを学んだのは、同じくプールを舞台にクズ主人公が登場する『THE POOL ザ・プール』でした。
『THE POOL ザ・プール』の記事を読み返していて改めて思いましたけれど、タイ映画の登場人物に「クズ」という表現を使いすぎている気がするので、反省。

いやでも、今まで観てきたタイホラー、クズムーブする主人公が多かったのは間違いないはず
タイは仏教の影響が濃そうなので、痛い目に遭うのは、理不尽系よりは日頃の行いが悪い方が受け入れられやすいのかも、とかも考えると面白い。


『スイマーズ/溺れるトライアングル』に話を戻すと、アイの霊が本当に現れていたのか?という点については、個人的にはパースだけに見えていた幻覚のようなものだったと捉えています
幻覚であったとしても、パースの主観的には実際に存在していたのと変わりありません。
それはもちろん、アイに対する罪悪感や後ろめたさ、そして恨まれているのではという恐怖心に起因しているものでしょう。
タイ語のタイトルやエンディング曲の歌詞通り、アイの存在がパースの中に残った影響、とも言えます。

本作においては、オカルト的なホラーは副次的な要素であったにせよ、心霊現象の演出は相変わらず素晴らしかったです。
特に、パースが隠れていたベッドの上でどんどん跳ねるところが好きでした。

心霊現象は、パースだけに見えていた、あるいは幻覚だったと考えれば、色々と説明はつきやすくなります
たとえば、病院で勝手にエコー検査道具を使っていたシーン。
さすがに無理だろうと思います。
ソーポップ・サクダービシット監督作品は、細かいツッコミどころは無視して描きたい要素を描く傾向が強いので、これも実際に細かいことは端折って検査していた可能性はありますが、パースが検査したつもり、心音が聞こえたつもりになっていたと解釈しても成り立ちます。
埋めた胎児の死体が消えていた点なども同様です。

ツッコミどころは、本作も少なくありません
何よりアイの自殺偽装は、さすがに本当の死因が違いますし、警察を騙すのは無理でしょう。
タンに対しても同じく。
パースの方がタンより潜水が得意というのが伏線になっていたとはいえ、自分でお腹をカッターで切った上に筋弛緩剤の影響が薄くなってきたばかりのパースが、先にプールに飛び込んでおきながらタンより余裕で呼吸が保ちまくりというのも、重要なラストバトルのシーンだっだたけにちょっと不自然さが強く感じられてしまいました。

本作で一番かわいそうだったのは、パースたちの中学時代の同級生くんでした
無実の罪でこれ以上ないほどボコられまくり。
あのあとパースもタンも捕まったりしなかったので、彼はきっと泣き寝入りしたのでしょう。
まっすぐ育ってほしい。

そして本作で怖かったのは、ある意味パース以上にアイの母親でした
アイの制服をベッドの上にまるで寝ているように並べていたところも不穏でしたが、あの人形、恐ろしすぎました。
そして、アイの家で首を吊っていたのが母親だと思いますが、アイの死後精神に異常を来しており、ついには自殺してしまったということでしょう。
首吊り死体越しにドアを開けて抜け出すシーンが本作一番のホラーシーンでしたが、死体を押しのけてドアを開けようとしたパースの心も強すぎる。

パースは基本的に、超短絡的でした
アイのことがあったのにミンとも避妊していなかった点からも窺えますが、計画性という概念など彼の辞書にはありません。
アイの携帯電話の話が出た直後に盗もうとしたり、「母親のスマホが壊れた」と嘘をついて修理店を聞き出そうとしたり。
成功していたとしてもパースの仕業だと絶対バレるでしょうが、まぁ証拠さえ隠滅してしまえば有耶無耶にできたのも確か。
こそこそ壁に隠れて様子を窺う卑怯なシーンがとても多い主人公でした。


というわけで、前2作以上にドラマ性の強かった本作ですが、本作はかなりドラマ>ホラーのバランスになっていた印象です
そのドラマも、爽やかな高校生の青春を舞台とした、ドロドロの愛憎劇。
それが本作の特徴ですが、個人的にはドラマ性が強すぎたのと主人公が共感できなさすぎたので、ソーポップ・サクダービシット監督作品の中ではいまいち合いませんでした。

しかし、冒頭5分の演出からオープニング映像の流れがあまりにも見事すぎて、それだけでも評価を高めたくなってしまう1作でもありました
あとタイもLINE使うんだ、と知りました(2014年の作品なので、今も使われているのかわかりませんが)。

しつこいようですが、合わなかっただけで、その幅広さがソーポップ・サクダービシット監督作品の魅力でもあります。
そして次作『プロミス/戦慄の約束』では、自分にとってはドラマとホラーのバランスがとても良くなっていた印象です。
『Home for Rent(原題)』も配信されたらぜひ観たいですし、その後もぜひ追っていきたい監督です。

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