『ソウ6』の概要と感想(ネタバレあり)
ジグソウのゲームの犠牲者とされる遺体からFBI捜査官ストラムの指紋が発見され、彼はジグソウの後継者とされてしまう。
しかし、ストラムの上司エリクソンはホフマン刑事こそが後継者だとにらみ、捜査を続行。
そんな中、また新たなゲームが開始される。
2009年、アメリカの作品。
原題も『SAW VI』。
本記事には、前5作『ソウ』〜『ソウ5』のネタバレも含まれるのでご注意ください。
前作『ソウ5』については、以下の記事をご参照ください。
だんだんと「ソウ」の2文字がゲシュタルト崩壊を起こしてきましたが、怒涛のシリーズ再履修も6作目。
シリーズ通して何回も観直しているとはいえ、ナンバリングを追うごとに鑑賞回数は少ないので、『ソウ6』は大好きながらだいぶ忘れてしまっている点もありました。
よくラスト10分ぐらいをシリーズ通して観たりはしていたのですが、完全に全編通しで観るのはけっこう久々だったかも。
改めて立て続けにシリーズを追ってきての感想としては、『ソウ6』はかなり完成度は高いのではないかと思います。
これまでの各作品の感想にも書いていますが、『ソウ4』『ソウ5』あたりから明らかに失速してしまった感は否めず、特にゲームの必要性やどんでん返しが弱かった『ソウ5』はその迷走傾向が顕著でした。
しかし、『ソウ6』はそれを見事に立て直した作品であると言っても過言ではないように思います。
まぁ本作からホフマン無双が大爆発するところは賛否両論かもしれませんが、ホフマン好きにはたまりませんし、何よりゲームの重要性と、ゲームがきちんとどんでん返しに繋がっている点は非常に評価が高いです。
監督は、これまでシリーズを通して編集を担当してきたケヴィン・グルタート。
脚本は『ソウ4』『ソウ5』に続いてのパトリック・メルトンとマーカス・ダンスタンの2人。
脚本家が3作続けて同じであることもあってか、これまでの伏線の多くが回収されたのも本作で、その点も見事でした。
『ソウ5』の感想で「とりあえずあまり深く考えず適当に伏線を残しているのでは」と書きましたが、『ソウ6』を改めて観ると思ったより色々と伏線が回収されており、ちょっと考えが変わりました。
反省。
ただ、『ソウ3』でアマンダが見て泣いていた手紙、つまりは『ソウ6』で明かされた「リン・デンロンを殺せ、さもないとジョンにジル流産の秘密をバラす」といったホフマンからの脅迫の内容は、本作における後付けではないかな、と思います。
そうだとすると、今さらあの手紙を取り上げるのはなかなか大変だったと思うので、かなり巧みな回収の仕方です。
本作では何より、上述した通りゲームがしっかりと重要なポジションを占めていた点が素晴らしいでしょう。
ジョンの遺言としてのゲームですが、かつてサポートを断られた悪徳な保険会社が対象という設定もとても良い。
久々にジョンプレゼンツに戻っただけあって、最近の「とりあえず邪魔な刑事だから」「とりあえず悪人だから」といったような適当な感じではなく、しっかりと思想に基づいたゲームとなっていました。
唯一の難点は、必ず誰かは死ぬゲーム性ですかね。
人殺しを憎むジョンが、必ず誰かが死ぬゲームを設定するのはやや違和感を覚えます。
とはいえ、全員グルになっていた同罪の保険会社職員ではありますし、あくまでも生と死を選ぶのはウィリアム・イーストン。
ジョンの思想との不一致はさておくと、「計算式」で命を搾取してお金に換えてきたウィリアムに対して、誰を生かし誰を殺すのかという選択を迫るゲーム設定は、とても面白かったです。
ホフマンが実行したので、必ず誰かが死ぬゲーム性はホフマンの考えかとも思ったのですが、ルール説明のビデオテープで喋っていたのがジョンだったので、やはりゲームの内容も含めてすべてジョンの考案であると考えるのが自然でしょう。
自分が死んだあとのゲームだからこそ、ジグソウ人形ではなくジョン自身が喋っている姿はなかなか熱い。
関わりのあったウィリアムだからこそ、わざわざ姿を見せることに効果があったのも絶妙です。
しかし、遺言がこのゲームだったということは、相当根に持っていたんでしょうね。
他者の命を軽んじ、選別し、自分の利益のために容赦なく切り捨てる姿勢は、確かにジョンが最も憎むものでしょう。
とはいえ、規定にない治療法が却下されてしまうというのは、どうなのかな。
そこは規約上明記されていたのであれば悪徳ではない気もしますが……。
ゴードン医師に対してもそうでしたが、ドライな対応がジョンは嫌いなようです。
もちろん気持ちはわかるのですが、ゴードン医師に関しても決して誤った対応をされたわけではないですし、医療従事者や保険会社側はある程度ドライさがないとやっていられないのも事実でしょう。
若干、ジョン・クレイマーがクレーマーに……あははは……みたいな話を先日スタバで女子高生がしていました。
ゲームも、生死がかかった側に選択権がないのは『ソウ3』のジェフのゲームと同じでした。
あれはなかなか辛いですね。
特に、ポスターにも使われているメリーゴーランドのゲームが非常に印象的であり、本作を象徴するゲームと言えるでしょう。
契約の3分の2を粗探しして却下・破棄してきた彼らの3分の2が死ぬというゲーム性も、エンタメ目線で正直に言えば最高です。
とはいえ、2人助けてしまったら、あとに残っている人は死ぬのが確定するというのはなかなかにエグいです。
本作においては、そのような形で死が確定したのは1人でしたが、最初の2人を助けてしまったら、あとの4人の絶望感は半端じゃないでしょう。
せめて序盤で順番が回ってきた方がマシかも。
しかし、何だかんだウィリアム、自己犠牲を払ってでも助けられる人を助けようとした姿勢は、ちょっと見直してしまいました。
本当に自己中であれば、全員見殺しにしていたでしょう。
首吊りの2択で、家族がいる中年女性のアディを助けたことからも、意外と情に厚いところもありそう。
まぁ、その中途半端さがいけなかったり、関わりのない人には冷酷だったのかもしれませんが。
そしてとにかく、本作で外せないのはラストです。
実はウィリアムではなく、過去にウィリアムに騙されて(おそらく)病死した男性の家族であるタラとブレンドの母子が選択できるゲームだったという事実。
ウィリアムの家族がタラとブレンドであると思わせるミスリードは巧妙で、完全に騙されました。
命の選択の重さを思い知らせた上で、過去に自分が搾取した相手の家族に自分の命の選択を委ねさせるという構図は、とても素晴らしかったです。
身体が溶けるという死に方も、『ソウ5』のストラム捜査官の圧死に続きインパクトがありました。
しかし、あのレバーを引いたのが息子のブレンドであったという事実はなかなか重いでしょう。
気持ちはとてもわかりつつ、誰も幸せにならないのが復讐ですが、自分が人を殺したという事実は一生忘れられないであろうブレンドの今後のメンタルが心配です。
今後でいえば、今回のゲームはホフマンが単独で準備したものでした。
となると、首に縄がかかった状態で不安定な場所に立たされていたアディとか、メーリーゴーランドで生き残った2人とか、自力での脱出は難しそうでしたが、いつ助けてもらえるんですかね。
ホフマンもそれどころではなくなってしまいましたし、ちゃんと助けてもらえたのか心配。
特に一瞬でも気を抜いたら落下しそうなアディが、気が気でなりません。
というのは冗談として、この流れでジグソウ側に話を移すと、ホフマン無双はもはや爽快。
いやいや、死体の手で指紋を残してもバレるのは素人でもわかるよ!と叫びたくなるほどの行き当たりばったりな対応ながら、脅威のアドリブ力であらゆる危機を乗り越える姿は、もはやダークヒーロー。
計画性は正直なさそうですが、タフさと臨機応変さだけで乗り切ります。
ナイフ1本でFBI捜査官3人を片付ける手際の良さは、シリーズ屈指のアクションシーン。
明らかに警戒していたのにあっさりやられてしまうなど、エリクソンとペレーズの両捜査官も読みと準備が甘すぎました。
またストラムの指紋を残して燃やして立ち去ったホフマンですが、警察署なので絶対防犯カメラとかありそうですけど。
最後の最後で逆トラバサミから脱出する発想も、アドリブ力の高さが本当に尋常ではありません。
その頭の良さをもう少し計画性に費やせれば、ジョンも超えられたかもしれないのに。
ちょっと頭悪いよね、なシーンも散見されるところが、ホフマンの愛嬌です。
ジルは個人的にはあまり好きではないのですが、ジョンがジルを巻き込んだのもやや違和感はあります。
死後、ジルの幸せよりも、ジルを危険に晒してでも自分の意志の遂行を希望したわけですからね。
さすがにジルはど素人だったので、シリーズで唯一失敗した「ゲームオーバー」となってしまいました。
ラストシーンで言うと、「Hello Zepp」の本作におけるアレンジはかなり好きなのですが、アレンジが強すぎて、盛り上がりの部分がなかったのがとても残念でした。
その分、エンドロールでは流れますが。
エンドロール後に短い映像があるのも、シリーズ初だったはず。
アマンダが、リンとジェフの娘に話しかけるシーンでした。
アマンダとホフマンがバチバチにやり合っているのも面白かったです。
全員が同じ画面に映ったわけではありませんが、ジョン、アマンダ、ホフマン、ジルが勢揃いしたのも感慨深いものがありました。
アマンダの過去もさらに明かされましたが、ジルを流産させた元凶であるセシルと行動を共にしていた、それどころか流産させるように仕向けていたというのは、なかなかに衝撃でした。
ジョンがゲームを開始したのはジルの流産後に自殺未遂してからなので、アマンダとジョンは、あの時点でほとんど面識はなかったはずです。
なので、アマンダがジョンを自分のものにするためにジルを流産させたわけではなく、アマンダはジルの病院で薬物依存の治療を受けいていたことが示唆されていたので、おそらくその関係での逆恨み的な行動であったとしか考えられません。
思った以上にやばい人でした、アマンダさん。
その設定、必要だったかな?とも思いましたが、それがホフマンからアマンダへの脅迫に活かされていたのでした。
そこがけっこう強引といえば強引で、当初からそのような設定だったわけではないだろうと思っているので、それが上述した「脅迫の手紙の内容は後付け」の理由です。
何にせよ、『ソウ5』でだいぶ失速してしまったな、とっ散らかってしまったな、という思いが否めなかったぐだぐだ感を、だいぶ見事に立て直したのが『ソウ6』だったのではないかと思います。
次はいよいよ、シリーズ一旦の最終作です。
追記
『ソウ ザ・ファイナル 3D』(2024/08/21)
続編『ソウ ザ・ファイナル 3D』の感想をアップしました。
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