作品の概要と感想(ネタバレあり)
あれから8年。
盲目の老人は、1人の少女と一緒に暮らしていた。
そんな2人の前にある時、謎の武装集団が現れる。
彼らが少女を狙って屋敷に踏み入ってきたことから、老人の狂気が再び目を覚ます──。
2021年製作、アメリカの作品。
前作の脚本を手がけたロド・サヤゲスが監督となり、前作の監督であるフェデ・アルバレスは製作に。
前作から引き続き、サム・ライミも製作に名を連ねています。
前作『ドント・ブリーズ』についての感想・考察はこちらです。
以下、前作『ドント・ブリーズ』のネタバレも含まれるので、念のためご注意ください。
前作と比べて、ホラー要素は鳴りを潜め、もはやジャンルはアクションと言っても過言ではなく、コンセプトが大きく転換しています。
目、さすがに見えてない?と思ってしまうレベルで、激しく機敏に動き回るおじいちゃん。
フェニックスを連れ戻すために装備を整えているシーンは、スティーブン・セガールに見えたほどアクション映画のそれでした。
「盲目の老人の恐ろしさ」を描くのは、前作でやり尽くした感があったので、同じ方向性で続編を作っても失敗していたでしょう。
賛否両論あれど、大きく舵を切ったこと自体はとても良かったのではないかと思います。
前回から引き継がれているのは設定のみで、もはや前作の生存者・ロッキーにはまったく触れないところも潔い。
2の序盤では、おじいちゃんの日常が描かれます。
まさかの前作から8年後という舞台設定。
盲目の老人ノーマン・ノードストロームは、夢が叶ったようで、新しい娘とそれはそれは幸せに暮らしておりましたとさ。
めでたし、めでたし。
……何とも意表を突かれるスタートでした。
おじいちゃん、まさかの新しい娘をゲットです。
前作のおじいちゃんの狂気を知っている観客からは、「何だ何だ?どうやって手に入れたんだ?まさかスポイト……」という悪夢が頭を過ります。
少女の名前はフェニックス。
こちらも新しい犬の名前はシャドー。
2人と1匹での、新しい家での新しい生活。
どうやらおじいちゃんは、フェニックスを学校にも行かせずに家に閉じ込め、色々と訓練してサバイバル術を仕込んでいる様子。
軟禁状態なのは「また娘を失いたくない」という思いからでしょうが、虐待です。
上着を羽織っている姿を初めて見たので、「あれ、おじいちゃん前ほどムキムキじゃなくなっちゃった……?」と思ったのですが、脱いでタンクトップ姿になるとしっかり前作通りでした。
着痩せするタイプなんですね。
中盤ではおじいちゃんの過去も明かされ、海軍の特殊部隊である「Navy SEALs(ネイビー・シールズ)」だったとのこと。
前作の考察で「おじいちゃんはそれなりにエリートだったのでは?」というのを書きましたが、エリートもエリートでした。
しかし、今回はおじいちゃん、けっこう弱かったです。
意表の突き方は相変わらずめちゃくちゃ上手いのですが、そこからがとても下手。
めっちゃ格好良く登場して奇襲をかけますが、何だかうまくいかずにごちゃごちゃしてしまい、ボコボコにされる繰り返し。
まぁ、目が見えないですし、鍛えているとはいえご高齢。
しかも今回は相手もそれなり以上に強いので、ひ弱な現代っ子が相手だった前作とは訳が違いました。
それでも、しっかりと見せ場を作ってくれるところはさすが。
本作最大の見せ場は、何と言っても水のシーンでしょう。
水の音と波紋で人数と距離を把握し、的確に仕留めるかっこよさ。
そのシーンを筆頭に、前作もそうでしたが、とにかく画の見せ方が抜群に上手いシリーズであると感じました。
後半ではおじいちゃんの心理の変化などについて考察します。
作中、少女の名前は「フェニックス」「タラ」と2つ出てきますが、最後に本人が名乗ったのを尊重して「フェニックス」で統一します。
考察:おじいちゃんの心理やいくつかの考察ポイント(ネタバレあり)
おじいちゃん大解剖その2
「神」の捉え方から見える心境の変化
『ドント・ブリーズ』シリーズを代表するキャラクター、盲目の老人であるノーマン・ノードストロームは、前作は「敵」ポジションで主人公たちに恐怖を与えてくれましたが、本作では主人公として描かれます。
前作におけるおじいちゃんの心理は前作の考察を参照していただくとして、本作におけるおじいちゃんの心理は、前作から大きな変化が見られます。
その要因はとにかく、新たな娘をゲットしたことです。
観客全員をドン引きさせたスポイト作戦は諦めたのか、まさかの誘拐してきた女の子でした。
その少女との8年間の生活により、おじいちゃんの心はややほぐれたようです。
それを象徴しているのが、「神」についての会話です。
前作では「神」を口にするだけでブチ切れていましたが、今作では「最後まで気を抜くな。油断すると神は奪う」と自ら口にします。
それは、たとえ残酷な面はあれど、神の存在を受けれいていることを示唆する発言です。
「神は悪人?」と問うフェニックスに対して、「神は公平だ」とまで口にするのです。
冒頭であえて神を話題に出す会話は、明らかに前作との対比として描かれており、おいじちゃんの心境の変化を如実に表していました。
誘拐と言っても、無理矢理連れ去ったわけではなく、火事になった家から逃げ出して倒れていたフェニックスを偶然発見した形です。
それはもしかすると、おじいちゃんにとっては神からの贈りもののように感じられたのかもしれません。
「ドント・ブリーズ」から「ブリーズ」へ
また、前作との対比を示すシーンがもう一つあります。
それは、地下の「箱」に隠れたあと、水責めに遭ったフェニックスを助けたときです。
このシーンでは、呼吸が止まっていたフェニックスに対して、「息をしろ(Breathe)!」と何度も叫びます。
これは明らかに、タイトル、そして前作との対比です。
地下にあった「箱」の存在は、そもそもかなり不自然でした。
思わせぶりに登場しておきながら、「え、ただ閉じこもるだけ?」な存在で、水責めであっさりと弱点を突かれます(そもそも相手に殺す気があれば、上から刃物なり銃なりで簡単にやられる)。
箱はストーリー上も何の必要性もなく、あのシーンを入れたのはただおじいちゃんに「ブリーズ!」と叫ばせたかっただけとしか考えられません。
前作『ドント・ブリーズ』は、呼吸の音も命取りになる緊張感。
それは、前作におけるおじいちゃんの狂気を象徴していました。
今回、その真逆である「Breathe!」をおじいちゃんに叫ばせたことは、そのこと自体がおじいちゃんの変化を示唆しています。
呼吸も許さず「死」にとらわれていたおじいちゃんが、フェニックスの存在によって、「生」の方向に向いた生活を送っていたことを示しています。
やっぱり自己中心的
いずれにせよ、前作から終始一貫していたのは、おじいちゃんはとにかく自己中心的です。
他人の家族の崩壊なんてなんのその。
子どもの気持ちを無視して、軟禁状態にまでしてしまう。
実の父親が迎えに来て連れ戻しただけなのに、それを追いかけて取り戻す。
自分の信念は、これでもかというほど強く持ち合わせています。
スポイト事件やその自己中心性から、インパクトはあれど人気キャラにまではなれていない印象ですが、その信念の強さが、不思議な魅力を醸し出しているのでしょう。
ただ、一つ気になるのは、おじいちゃんは子どもを失う辛さは誰よりも知っているはず。
他人の子どもを奪うことに何も葛藤がなかったとは、やや考えにくいものがあります。
考えられる一つは、火事によって少女以外の家族は死んだと思い込んだ可能性。
あるいは、おじいちゃんが倒れているフェニックスを見つけたシーンのあと、火事に関するニュースを見ているシーンが続きました。
そこでは「覚醒剤密造所で火事があり〜」といった報道がなされていました。
それで初めて両親の生存を知ったけれど、そのような犯罪者の両親であればむしろ自分が育てた方が少女のためになる、と思ったのかもしれません。
それでも、子どもを奪われたおじいちゃんが子どもを奪った事実に変わりはなく、若干キャラにぶれは感じてしまいました。
そこまで自己中心的だった、と考えるしかありません。
しかし、自己中心的というのは、『ドント・ブリーズ』シリーズに出てくるほぼ全員に言えることでもあります。
前作の主人公たちも、今作のフェニックスの両親も。
綺麗事ではない、自己中心性のぶつかり合いが、『ドント・ブリーズ』シリーズの特徴かもしれません。
一番まともだったのは序盤に出てきた元軍人のお姉さんで、速攻死んでしまったのは残念でした。
次点は、自分たちの行為が間違っていると感じ、おじいちゃんを見逃した覚醒剤密造組織のメンバーです。
その他の考察ポイント
フェニックスの両親の目的
これはほとんど作中で描かれていましたが、フェニックスの母親の命を助けるために、父親はフェニックスを探していたのでした。
火事の後遺症的な影響で、心臓に問題を抱えていた母親。
フェニックスの、つまり娘の心臓を移植することで助かろうという、おじいちゃんもびっくりのトンデモキャラの登場です。
しかも、フェニックスに対して、わざわざ目的を懇切丁寧に説明するという鬼畜っぷり。
感動の再会とはいえ、それで「あらそうなの、じゃあ私の心臓を捧げるわ」と言うとでも思っていたのでしょうか。
説明したのはせめてもの誠実さのつもりだったのかもしれませんが、睡眠薬で眠っているうちに勝手にやった方が、まだ優しいのでは。
どう見ても自己中心的でしかないおじいちゃんを正義側に立たせるには、さらなる悪役キャラ、ぶっとびキャラが必要だったのかもしれません。
母親が娘の命を犠牲にしてまで自分が助かろうとして、血の繋がりもない老人が少女を助けようとする。
その倒錯した構図が実に素晴らしい。
これまで色々な作品の考察で触れてきましたが、グレートマザーの負の側面の権化のような存在です。
「私たちは一つになれるのよ」という言葉が、それを見事に象徴しています。
御伽噺に出てくる、魔女のような存在。
それが実の母親であるという恐怖。
手術直前の、口パクでの「ありがとう」が、本作における一番のホラーシーンでしょう。
医師の正体
『ドント・ブリーズ2』において、一番衝撃的だったのは移植手術シーンでした。
えっ、このままやるの!?
麻酔もなく!?
めっちゃ起きてますけど!?
あのままキュイーン!パッカー!して心臓取り出したとしても、さらに母親の開胸もしないといけないですよね。
母親も麻酔なしでキュイーン!パッカー!して交換するつもりだったのでしょうか。
いきなり話が逸れましたが、ちょっとだけ出てきた医師の名前は、ヘニマン。
見逃しがちですが、実は冒頭のニュース映像に登場していました。
それによれば、指名手配されている臓器売買グループのリーダーとのこと。
フェニックスの父親が医師に「高い金を払ってる。さっさと始めろ」と冷たく言い放ったり、終盤、おじいちゃんが侵入してきてからは「私は降りる」と言っていた様子からは、裏の繋がりを通じてお金で雇われただけの関係だったのでしょう。
火事はなぜ起こったのか
フェニックスの実家の火事。
フェニックスの母親が心臓を患い、父親が刑務所送りとなるきっかけになった火事。
この火事は、普通に考えれば、何らかの事故で偶然起こったものと考えられます。
父親が「罪をかぶった」的なことを言っていたのを考えると、火事の原因は母親であった可能性も考えられます。
地下室で覚醒剤を作る、組織の中心的人物だった母親。
彼女がいなくなると覚醒剤が作れなくなってしまうので、父親が代わりにすべての罪を背負ったのでしょう。
ただ、一つだけ仮説として提唱したいのは、おじいちゃんが火事を起こしたという可能性です。
覚醒剤密造組織の中心メンバーの娘として生まれたフェニックス。
それはそれで、不憫な環境ではあります。
何らかのきっかけでフェニックスの存在を知り、助け出して自分の娘として育てよう、と思った可能性です。
フェニックスだけ助け出せるかわからない上、目の見えないおじいちゃんが実際にそこまでできるかというと微妙ではありますが、一つの仮説として面白いのではないかと思っています。
そう考えると、「女の子が倒れてるのを見つけたから娘にしちゃった」より、多少は理解可能になるのではないでしょうか。
ラストシーン
本作のラストシーンでは、倒れて動かなくなったおじいちゃんを置いて、フェニックスが1人で廃ホテルを出て行きました。
事情はどうあれ、実の親も育ての親も一気に失いながらも、自ら養護院を訪れ「フェニックス」と名乗る少女の強さは胸を打つものがあり、これから報われてほしいです。
それはさておき、ラストシーンで問題となるのはやはり、おじいちゃんは死んだのかどうか、でしょう。
今回は、前作以上のあれだけの怪我、さすがに死んでいそうです。
しかも、前作はちょうどすぐに警察が駆けつけましたが、今回は放置されたまま、いつ救助が来るのかもわからない状況でした。
もし見逃した方がいらっしゃれば見直していただきたいですが、エンドロールの途中で、犬がおじいちゃんの手を舐める数秒のシーンが挿入されます。
おじいちゃんの手はまったく動かないままで、犬は悲しそうに座り込んでいました。
ただこのシーン、よく聞くとバックに呼吸音のような音が聞こえるんですよね。
これはもしかすると、おじいちゃんが生きていることを示唆するものかもしれません。
前作では、あれだけの怪我を負いながら当日には家に帰るという不死身っぷりを見せつけたおじいちゃんです。
普通の尺度で考えてはいけません。
つまり、普通に考えて重症のレベルが、おじいちゃんにとっては日帰りできるほどの軽傷でした。
ということは、普通に考えて死ぬレベルが、おじいちゃんにとっては重症ぐらいである可能性は十分にあるでしょう。
あのあと、犬が助けを呼びに行って、おじいちゃんは助かる。
もしかしたら、2作で綺麗に完結したラストと見せかけて、呼吸音と犬の存在が『ドント・ブリーズ3』への伏線なのかもしれません。
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