作品の概要と感想(ネタバレあり)
両親の結婚35周年を祝うために家族10人が集まる。
しかし、そこへ突然キツネやヒツジ、トラといった動物の仮面をつけた集団が現れたことから、逃げ場のない密室で予測不能な事態が次々と巻き起こる──。
2013年製作、アメリカの作品。
原題は『You’re Next』。
邦題の『サプライズ』はわかるようでよくわからないような感じですが、原題の『You’re Next』もわかるようなわからないような感じなので、お互い様でしょうか。
日本版ポスターの「一匹目は、ヒツジ。二匹目は、キツネ。三匹目は、トラ」みたいなのも、間違ってはいないのですが、そんな童話な雰囲気でもないので作品には合っていないような。
数年前に観ていましたがほとんど内容を覚えておらず、でもけっこう面白かった記憶があるので再鑑賞。
フェリックス(3男)とジー(フェリックスの彼女)が犯人側だったというのは覚えていたのですが、クリスピアン(主人公エリンの彼氏)も共犯だったという大きな部分をすっかり忘れていました。
クリスピアン、犯人の割に影が薄かったし、共犯というのが発覚してからは見せ場もなく速攻エリンに殺されたので仕方ないよね、と自分に言い聞かせ。
『サプライズ』は、やっぱり好きな作品なのですが、「名作になれそうでなりきれなかった」という印象が強い作品です。
良かった点としては、まず、舞台設定。
大きな屋敷に、久し振りに集まる両親と4人の子どもたち、そして子どもたちそれぞれのパートナー。
妨害電波により外界と遮断された屋敷で起こる事件は、まるで本格ミステリィ小説の舞台。
そしてそこに現れるマスクをつけた殺人鬼たちは、スラッシャーホラーを彷彿とさせます。
実はエリンが強かったり、家族の中に犯人がいたりと、二転三転する展開もスピード感があり好きでした。
事件の始まりが何の予兆もなくあまりにも唐突だったのも良いです。
何が起こっているのかよくわからないまま次々と襲いかかってくる殺人鬼には、緊張感がありました。
ややベタながら、動物マスク殺人鬼たちのデザインも好きでした。
ただ、キツネのマスクはまだ良さそうでしたが、ヒツジのマスクあたりはめっちゃ視界が狭そうでした。
おかげで、せっかく釘トラップに気がついたのに、真下にもあるのに気づかずまんまと引っかかってしまう始末。
一方、名作になりきれなかったポイントとして大きいのは、魅力的な舞台設定の割に中身が薄く、登場人物の行動のほとんどが間抜けで、引っかかってしまう点が多かったこと。
キラー側もサバイバー側も、1人ずつ順番に不必要な単独行動をして、無防備にやられていきます。
最後の対決を除いて、ほぼすべてがそのパターンでした。
殺害パターンが単調だったのも残念ですが、ミキサーがそのマンネリ感をすべて吹き飛ばしてくれたのでチャラ。
一番の突っ込みシーンは、やはり唯一の女の子エイミーの玄関ダッシュでしょうか。
敵が何人いるかわからない上、明らかに飛び道具を持った敵が外にいるのに、「足が速いから大丈夫」という謎の勇気。
あんなに溺愛していたのに、あっさりと危険に飛び込む娘を見送るお父さん。
エイミーの玄関ダッシュを予想していたかのような絶妙な高さのトラップ。
ただ、このシーンは、引き留めようとするエリンに対し、フェリックスが煽っていたので、伏線にもなっていました。
サバイバルキャンプで育っただけでそんなになるか……?とは思いますが、主人公エリンが実はめちゃくちゃ強かった、という展開は好きでした。
徹底して確実にトドメを刺したり、裏切られた怒りもあったとはいえ、一時期は愛情を抱いていたクリスピアンを容赦なく殺害するところなどは、サバイバルキャンプで身につけたスキルだけではなく、エリンの人間性も影響していそうです。
「引っかかるのはお前かーい」なラストシーンも好き。
警察官は、単独で見に来たのと、警告もせずに発砲したのが失敗でした。
といった感じで、まさかのエリン以外全滅エンドでしたが、不思議と後味の悪さはありません。
かといって爽快感があるわけでもなく、エリンを含めて登場人物たちもそれほど応援したくなるわけでもないので、ドタバタしながら勢いだけで最後まで駆け抜け、「結局何だったんだろう」という不思議な感覚が残る作品でした。
ちなみに、長女エイミーの彼氏タリクを演じていたのは、『X/エックス』で一気に有名になった感のあるタイ・ウェスト。
メインは監督や脚本など製作側ですが、ちょこちょこ俳優としても出演しているようです。
ちょっとだけ考察:細かい謎ポイント(ネタバレあり)
だいたい犯人側が丁寧に説明してくれるのでそれほど謎は残りませんが、少しだけ。
犯人たちの関係性と目的
主犯は、フェリックスとジー、そしてクリスピアンでした。
気が弱そうなクリスピアンが速攻逃げ出してしまった点も考えると、主導はフェリックスとジーだったのかもしれません。
ジーは登場からパンクなふてぶてしさを発揮していました。
もしかすると、ジーがフェリックスを焚きつけた可能性も考えられます。
目的は、もちろんお金です。
両親、そして兄妹がいなくなれば、莫大な遺産が転がり込んできます。
お金のために、家族のほとんどを皆殺し。
めでたい席でも喧嘩しまくっており、兄弟仲はもともと悪かったようで、ご両親は何ともかわいそう。
ついつい嫌味を言ってしまうひねくれ者ですが、何だかんだ長男のドレイクが一番家族想いに見えました。
動物マスク3人組は、お金で雇われた殺し屋たち。
3人のうち2人が兄弟であることすらフェリックスは知らなかったことを考えると、完全に今回の事件のためだけのビジネスライクな関係だったようです。
突然押し入ってきた謎のマスク集団によって、フェリックスとジー、クリスピアンとエリン以外が殺害される。
唯一何も知らないエリンは「目撃者」の役目であり、エリンの証言によって外部犯による犯行であることが明らかとなり、フェリックスとジー、そしてクリスピアンは莫大な遺産を手にいれる。
というのが、フェリックスたちの計画でした。
フェリックスたちの最大の失敗点は、クリスピアンの存在でしょう。
速攻逃げ出した上に、知らなかったとはいえエリンという最大の妨害要因を招いてしまったクリスピアン。
一番大変な作業をすべて押しつけて逃亡し、終盤、「終わったか?逃げちゃってごめんよ。許してくれよな。金はくれよな」といった感じで戻ってくるクリスピアンが、実は一番ヤバいキャラだったのかもしれません。
隣人の殺害と「You’re Next」の意味は?
映画冒頭では、デビソン家(クリスピアンたち家族のこと)の隣人が殺害されました。
これは、デビソン家で事件を起こした際、万が一誰かが逃げ出して隣人に助けを求めに行ったときのことを考えての予防線でしょう。
つまり、隣人は完全に巻き込まれて殺されただけでした。
デビソン家の事件において、母親のオーブリーが寝室で殺された際、寝室の壁に「You’re Next(次はお前だ)」の文字が残されていました。
これは実質的には意味がなく、「猟奇的な外部犯」といった印象を抱かせ、フェリックスたちが疑われないようにするための策略であったと考えられます。
隣人の家に「You’re Next」が残されていたのも、また同様の理由でしょう。
「ドレイク家の事件のために隣人が殺された」と思われないために、こちらも同じように凄惨な事件現場にしてメッセージを残すことで、「猟奇的な殺人鬼がこの一帯に現れて、二つの家を襲撃した」とミスリードさせるためであったと考えるのが自然です。
それを踏まえると、『You’re Next』というタイトルも、観客をミスリードさせるためのタイトルとして捉えれます。
隣人の家でもドレイク家でも同様のメッセージが残されていたことから、「次々と家を襲う謎の連続殺人マスク集団」という印象を抱かせることで、実はドレイク家に内部犯がいたということの意外性が際立ちます。
そう考えると、『サプライズ』という邦題は真逆の方向性であり、エリンによる返り討ちにしろ、家族内に犯人がいたという点にしろ、「サプライズなポイントがあるよ」というのをあらかじめ示唆するタイトルとなっていました。
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