作品の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:おどろしの森
著者:滝川さり
出版社:KADOKAWA
発売日:2020年10月23日
4人家族の大黒柱である尼子拓真は、新築一軒家を購入し幸せの絶頂だった。
だが家にお香のような甘い匂いや女の笑い声がし出し、派手な着物姿まで目にする。
拓真は恐怖するが、妻と高校生の娘は何も感じないらしく、不審な目で見るばかり。
霊が視えるというガールズバー店員のミヤに尋ねてみるも、何も視えていない様子に絶望する。
だが実はミヤは、拓真の呪いの正体に気づきながらも黙っていて──?
初読みの作家さんでした。
本作の次に出ている『ゆうずどの結末』を読みたいと思って先に買っていたのですが、縁あったのと先に発売されていたこともあり、こちらから。
前半はじめじめ不穏な家系ホラー。
後半は怪異とのバトルかつバディもの。
文章はわかりやすいけれどライトになりすぎず、全体的にとてもバランス良く楽しめました。
気軽に読み始めたのですが、予想以上にハマって一気に読了。
後半は思ったよりアクロバティックで、異能力バトルと呼べそうなほどの展開になりましたが、公式で「ノンストップ・ホラーエンタメ!」と謳われている表現がぴったりでした。
オリジナルの背景設定がしっかりと深掘りされた怪異に、個性の強い登場人物たち。
違和感なくジャンルや場面が移り変わり、飽きない展開。
ホラーにしては爽やかな終わり方で読後感も良く、おそらくハッピーエンドと言って差し支えないでしょう。
登場人物としては、やはりというべきか波瀬アキラが魅力的でした。
どちらも容姿端麗すぎるという美也とのコンビは、若干狙いすぎている感が強めであるのも否めませんでしたが、終わり方からしてもシリーズ化も十分あり得そうですね。
もっと人気が広がったりシリーズ化したりしたら、映像化もあり得そう。
いやでも、声でもバレないとなると美也の配役が難しそうです。
女性が演じれば成り立つでしょうが、それはそれで別の問題を感じなくもありません。
その他の登場人物も、ホラーであるあるな愚かだったり苛立ってしまうキャラが少なかったのも印象的でした。
特に、主人公である尼子拓真の感覚がとてもまともで、色々な葛藤を抱えながら家族と向き合っていくプロセスもしっかりと描かれていました。
ちょいちょい暴走して窮地に陥っていたのはホラーの定石なので仕方ありませんが、そこも父親としての想いが先走ってという場面が多かったので、「余計なことを……!」感が薄かったのも良かったです。
序盤でやけに木造である点が強調されていたのが印象的だったので、家がおどろしの森の木でできていることは早々に予想できました。
ただそうなると、さすがにこの家だけではなく、他にも色々なところに使われていそうですよね。
おどろしの森の木をどれぐらい使ったら繋がりができるのか。
石とか土とかでも繋がりができるのか。
それなら空気は?
などなど、ついつい気になってしまう性格です。
むしろ、尼子邸がおどろしの森の木でできていることよりも驚いたのは、トシ=杉坂だったことです。
こちらはまったく気がつかず。
「酒癖が悪い」だけでは済まない、もはや完全なるストーカーで性犯罪者でした。
おどろしすら過去を知れば悲しみが溢れてくる点を踏まえると、杉坂が本作で一番怖い存在だったかもしれません。
その分、自業自得で壮絶な制裁を受けてくれた痛快さも、親切設計でしょうか。
おどろしの過去や、娘のパパ活相手=父親の上司だった点にはなかなかに闇深さもありましたが、主要登場人物における死者もそれほど多くなく、というより中心となる人たちはほぼ死んでいません。
序盤で提示された謎は丁寧に回収され、もやもやはほとんど残ることもなく、間口の広いライトめなホラーとも言えそうです。
一方で、本作の限りでは、オリジナルの設定はしっかりとなされていましたが、それほど強く個性を感じる作品ではありませんでした。
タイトルといい展開といい、澤村伊智の比嘉姉妹シリーズを彷彿とさせる要素も多々。
期限が3日といったタイムリミットもありましたが、鈴木光司『リング』のように活かされていたわけではなく、そこまで緊迫感はなし。
全体的に爽やかでさっぱりしていることもあり、十分すぎるほど楽しめましたが、強く印象に残るというほどではありません。
堅実な良作であった本作を踏まえて、あらすじなどを見る限りでは『ゆうずどの結末』の方がよりオリジナリティが高まっていそうなので、期待。
まだお若い上に2作目とは思えない文章力だったので、第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉を受賞したデビュー作『お孵り』も、もちろん『ゆうずどの結末』も、そして今後の作品もぜひ読んでみたいと思いました。
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