【映画】ベネシアフレニア(ネタバレ感想・考察)

映画『ベネシアフレニア』のポスター
(C)2021 POKEEPSIE FILMS S.L. – THE FEAR COLLECTION I A.I.E.
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作品の概要と感想(ネタバレあり)

映画『ベネシアフレニア』のシーン
(C)2021 POKEEPSIE FILMS S.L. – THE FEAR COLLECTION I A.I.E.

結婚を間近に控えたスペイン人のイサは、独身最後の期間を友人たちと満喫するべく、カーニバルで賑わうイタリア・ヴェネツィアへやって来る。
しかし近年のヴェネツィアでは、観光客の増加による環境悪化が社会問題となっていた。
イサたちがボートに乗り込むと、カーニバルの衣装を着た道化師が同乗してくる。
その不気味な雰囲気さえも楽しもうとするイサたちだったが、その道化師の正体は観光客を狙う恐ろしい殺人鬼だった──。

2021年製作、スペインの作品。
原題も『Veneciafrenia』。

「Venecia」はヴェネツィアですが、「-frenia」は英語でいう「-phrenia」で、「精神」や「心的機能の障害状態」を指します。
schizophrenia(統合失調症)が有名でしょうか。
なので、「ベネシアフレニア」の訳的には、ヴェネツィアの精神、それも病理的なニュアンスが含まれているのだと考えられます。

ヴェネツィアは、ベネチア、ヴェネチア、ベネツィアなど表記が入り乱れ、どれを使えばいいのか迷ってしまう都市ランキングでも上位に食い込んでくることで有名ですが(適当なこと言いました)、ここでは『ベネシアフレニア』の公式サイトにおける記載に準拠して「ヴェネツィア」で統一します。
でも、公式サイトの予告映像の字幕では「ベネチア」になってしました。
解せませんが、字幕は一度に表示できる字数制限があったり読みやすさ重視なのが理由でしょう。


水の都・ヴェネツィアで繰り広げられる血と殺戮の物語。
予告映像以外あまり情報を入れないまま観に行ったので、「観光客殺害ヒャッハー!」な快楽殺人的な作品かと勝手に想像していましたが、思ったより社会的なテーマが取り入れられており、重々しさもある作品でした。

現実問題として観光客に頼らざるを得ない部分も多い観光地の、マナーが悪い観光客や環境悪化問題や、それによる地元民の分裂。
「観光客の大幅な増加によって観光地が過度に混雑し、地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす状態を「オーバーツーリズム」というそうです。
ヴェネツィアに限らない、人気の観光地には普遍的な問題でしょう。

まずはトータルの感想としては、個人的にはかなり好きな作品でした。
仮面好きなので、ヴェネツィアン仮面なんてもう最高です。
マイナス点としては、一番はオチが弱かった点でしょうか。
ツッコミどころがとっても多く見られたのは、長所でもあり短所でもあり。

しかしとにかく街並みが綺麗
別に登場人物たちが何をしていなくてもどのシーンも絵になるので、ずるいですね(何が?)。
実際に住んだら湿度とか大変そうですが、それこそ観光客気分で街並みを見ているだけでも楽しい映画でした。

余談ですが、東京ディズニーシーの街並みは、主にイタリアの街がモデルとなっています。
メインの街並みはポルトフィーノという街ですが、ディズニーシーで乗れるゴンドラのアトラクション名は「ヴェネツィアン・ゴンドラ」であり、まさに本作にも出てきたヴェネツィアのゴンドラです。


ただ、本作を冷静に振り返ってみると、全体的に中途半端感は否めません
ジャンルも難しく、ホラーでもないですし、社会派というには表面的で深掘りされているわけでもなく、スラッシャーというにはインパクトが弱い。
テンポも良いとは言えず、よくわからないままのシーンやストーリー、「そうはならんやろ」な場面も多々。

そう考えると、それでも個人的に好きなのは、圧倒的に世界観や雰囲気が大きいかもしれません。
果たしてあれで舞台が普通の街並みだったら、今ほど高評価だったのかは正直微妙なところ。

ただ、ちょうど直近でダリオ・アルジェント監督の『ダークグラス』を観ていたのはプラスに働いたかもしれません。
『ダークグラス』でジャッロというジャンルに初めてちゃんと触れましたが、『ベネシアフレニア』も冒頭のオープニング(これも大好き)などを中心にジャッロの流れを汲んでいそうな部分が散見されたので、リアルさを追求しているわけではなかったり、癖の強い部分も受け入れやすくなっていました。
『ベネシアフレニア』の音楽に関しても、主張が強く無理矢理テンションを上げてくるような音楽が好きでした。


少し内容に入ると、イサたち主人公は、さすがにマナーが悪すぎでしたね。
ちょっと浮かれて騒いでしまうというレベルを遥かに超え、酔ってピンポンダッシュとか、お金を払わずにお店を出るとか、もはや完全に犯罪レベル。
ベースにオーバーツーリズムの問題がなかったとしても、地元民から白い目で見られていたであろうことは間違いない集団でした。

それがあったので、彼らが襲われていく様は、ある種の爽快感すらありました。
それは古典的なスラッシャー、スプラッタ作品に近い感覚かもしれません。
グロさは弱めでしたが、フックで吊るしてあやつり人形のように弄んで見せつけるところは好きでした。
めちゃくちゃ煽るやん。

観光客問題については、もう少し国というか自治体というか、が対策すべき問題ですよね。
あんな怒りに駆られたデモ集団にもみくちゃにされながら観光客が通り過ぎないといけないというのは、あの時点で確実に事故や事件が起こりそう。
製作がイタリアではなくスペインという他国であった影響もあるのか、どうもヴェネツィアがけっこうかわいそうな描かれ方をされていた気もします

あとは、伏線に見えて全然関係ないポイントが多かったのが、少し冗長に感じてしまった要因でした。
ホセの痕跡が何もない点とか、船で首斬られても誰も気づかないところとか、8ミリフィルムの現像とか。

中でも一番無駄に感じてしまったのは、イサの婚約相手の登場です。
薔薇を抱えて颯爽とやって来ましたが、結局ほとんど何もせずに婚約破棄してご帰宅。
まぁ、嘘というか隠し事をされていて、来たらいきなり血まみれ地獄、婚約相手は知らないイケオジと抱き合っているとなれば、同情の余地は多分にあります。

とはいえ、思い込みも激しく嫉妬深そうな彼と、もっとちゃんと説明すればいいのに変に誤魔化して隠し事をしちゃったり、あれだけ「私結婚するから」みたいに言っていたのにテンション上がったら「独身最後のパーティよぉ〜!」とはっちゃけちゃうイサ。
結婚しなくて正解な組み合わせだったような気もします。

数多いツッコミポイントの中で一つ取り上げたいのは、街中での殺人を「これはショーなんだ!」で全員が納得してしまうところです。
カーニバルで浮かれ非日常感も漂う中、惨劇があっても「見せ物だろう」と思ってスルーされてしまうという発想自体は実際にあり得てとても面白いですが、さすがにみんな「イエーイ!」みたいに盛り上がりまくっているのは違和感を抱いてしまいました。
でも、「いや、そうだよね!みんなショーだと思っちゃうからしょうがないよね!」と思わされてしまう強引さは好き。

というわけで、設定や舞台は大好き。
一方で、内容やストーリーは少し物足りなさを感じてしまった作品でした。

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考察:犯人の目的や、パーティ会場はどこにあったのか?(ネタバレあり)

映画『ベネシアフレニア』のシーン
(C)2021 POKEEPSIE FILMS S.L. – THE FEAR COLLECTION I A.I.E.


この仮面すごく好き。

だいぶ謎展開も多いので、あまり突き詰めて考察するべきではない作品ではありますが、ちょっと気になったいくつかの点について検討しておきます。

犯人の目的

犯人グループを率いていたのは、精神科医ヒューゴとその妻クラウディアでした。
2人は過去に大型クルーズ船の事故で息子を亡くしており、それが観光客への恨みを募らせた大きな要因だったようです。
ヒューゴがペスト医師の格好をしていたのは、観光客がペスト(感染症)のようにヴェネツィアを蝕んでいく、それを救いたいという想いが込められていたのでしょう。
しかし、クルーズ船が制御困難になってあんな船と陸に挟まれて死んでしまうとは、大層な事故ですね。

彼ら夫妻は決して観光客を殺すことは目的とせず、誘拐してしばらくしてから解放する、という方針のようでした。
いきなり観光客を拉致・監禁してしまうことにより、観光客に恐怖を与える。
そしてその恐怖によって観光客を減少させることが目的でした。

命を奪わない方針は良いと思うのですが、あれだけ仰々しく儀式めいたものまでセッティングしていた割には、やや弱い活動に感じてしまいました
特に2人は、メッセージ動画を残したのちに自殺。
組織的な犯行であり、他にもメンバーが多数いるとはいえ、主犯が死んだとなれば、どこまで恐怖心を維持できるのかは疑問が生じます。
動画も、だいぶ引っ張った割には、あまり大したことは言っていなかったような(失礼)。

その点では、ヒューゴの双子の弟リザルドの過激さの方が、圧倒的に目的には適っていたでしょう。
クラウディアも遠回しに、と見せかけてかなり直接的に殺人行為に同調していたので、極力平和主義な方針はヒューゴによるものだったようです。

しかし、リザルドは精神疾患を抱えていたという設定がまた、ついつい文句を言いたくなってしまいます。
むしろリザルドもリザルドで自分の信念に従って殺人を繰り返していたという方が、観光客を取り巻く多様な考え方という点では望ましかったように感じました。

犯人グループはどれだけいた?

結局仮面は外さず、多くの正体は明かされなかった犯人グループのメンバーたち。
古典的スラッシャーなアナログ犯行と見せかけて、高度なIT技術を見せつけてきたところは面白かったです。

序盤では、もはや街ぐるみでグルなのでは?と思ったのですが、全然そんなわけではなさそうでした
上述した通り、イサの弟ホセが行方不明になり、その痕跡がまったくなかったことには不気味さも感じられ、周到に準備された犯行のような印象を受けたのですが、結局はただの偶然だったようです。

痕跡が消せたのは、ホテルのフロント女性がクラウディアだったので、ある程度情報を持っていたり、コントロールできたのでしょう。
ホセが選ばれたのは、痕跡を消せそうな相手だったから、とは言えそうです。
クラウディアは、観光客に対してあんなにイライラするならホテルの仕事は辞めた方が絶対に良さそうですが、情報収集のためだったのかもしれません。

しかし、船でアランツァが首を斬られてハヴィが大騒ぎしても乗客が誰一人反応しなかったのは、絶対に乗客も全員グルだと思ったのですが、あれも本当にただ気がついていなかっただけのようです。
そんなことある?
リザルドもリザルドで、精神に異常を来していたらしいとはいえ、観光客だけを狙っていたところからは観光客への嫌悪が犯行の根底にあったのでしょうが、そんな観光客の血で河を汚してしまっても良かったのかな、というのも気になってしまいました。

船の操縦士ジャコモや、警察官のブルッネリも絶対に共犯だと思ったのですが、これも大外れ
この点はあえてそうミスリードする意図があったのか?と思ってしまうほどですが、あまりミスリードする必要性も感じられず。
ジャコモなんて、イサに一目惚れした感はありましたが、それにしてもただのめっちゃいい人でした。

というわけで、犯行グループは意外と小規模なのかなと思います。
余談ですが、最後に犯行グループのアジトに突入した際、イサが警察官よりも前に出て突き進んでいくところはちょっと笑ってしまいました。

パーティ会場はどこにあった?

個人的に本作の一番の謎が、秘密のパーティ会場が開かれていた場所です。

偶然見かけたペスト医師を追い、入り込んだ家の地下で開かれていたパーティ。
しかしそこは、改めて訪れたときには存在しておらず、そもそもヴェネツィアには基本的に地下室はない、という真実まで明らかになります。

何とか頑張って地下室を作って隠していたという可能性もなくはないかもしれませんが、あの秘密のパーティ会場の場所として一番妥当なのは、犯人グループの拠点となっていた島でしょう。
しかしその場合は、あの夜にイサたちがペスト医師を追いかけて忍び込めたことに矛盾が生じてしまいます。
明らかに海は渡っていません。

考えられるとすれば、秘密結社の古代の飲み物みたいなのが出てきましたが、それを飲まされた影響により記憶が混乱してしまった、という説。
それぐらいはないと、思わせぶりに出てきた秘密結社も、あまりにも意味がなさすぎになってしまいます。

実際に魔法や毒物が入っていたわけはありませんが、単純なアルコールでもない特殊な飲み物で、記憶が混乱。
実際には海を渡ってあの島まで運ばれていた、そしてホテルはクラウディアが知っていたので昏睡している間にホテルにも戻せた、という仮説です。
その場合、ペスト医師を追いかけて地下のパーティ会場に行ったシーンは、イサたちの誤った記憶ということになります。
「リゴレット」が合言葉だったのも、あまりにも都合が良すぎでしょう。

あるいは、少し(かなり?)飛躍した仮説としては、あのパーティ会場はあの夜だけ現れた幻の場所だった、というのもありかもしれません。
秘密結社の秘密の儀式で現れた、異空間のようなもの。

この説の良いところは、首を斬られたアランツァの恋人ハヴィが街中を逃げ回っていた際、人が誰もいなかった点も説明できることです。
夜中とはいえ、観光客も地元住民もまったく気配すらなし。
走り逃げるハヴィを、『天空の城ラピュタ』のムスカばりに歩きながら見失うことなく追い詰めていくヒューゴ兄弟。
あのシーンは「異空間か?」と思ってしまいましたが、もしかすると、本当に異空間だったのかもしれません

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