【映画】M3GAN/ミーガン(ネタバレ感想・心理学的考察)

映画『ミーガン』のポスター
(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

映画『ミーガン』のシーン
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おもちゃ会社の優れた研究者であるジェマは、子供にとって最高の友達であり、 親にとって最大の協力者となるようにブログラムした、まるで人間のようなAI人形M3GAN(ミーガン)を開発。
ある日、両親を亡くし孤児となった姪のケイディを引き取ることになったジェマは、ミーガンに「あらゆる出来事からケイディを守るように」と指示し力を借りるが、その決断は想像を絶する事態を招くことになる──。

2023年製作、アメリカの作品。
原題も『M3GAN』。

ジェームズ・ワンとジェイソン・ブラムが製作でタッグを組んだという、それだけで「面白くないわけがない」と思わせる最強の1作。
個人的にジェームズ・ワンは大好きですし、ブラムハウス作品は完全なる信頼を置いています。
特にジェイソン・ブラムに関しては、

映画『ミーガン』
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↑この写真(左がジェームズ・ワン、右がジェイソン・ブラム)だけでも、どう考えても信頼できます

タッグはよく組んでいる印象ですが、何だかんだ本作は『インシディアス』シリーズ以来とのこと。
監督は長編2作目のジェラルド・ジョンストン、脚本はジェームズ・ワン監督の『マリグナント 凶暴な悪夢』も担当したアケラ・クーパー。


上映前から話題性が先行しているプロモーションも抜群に上手だった本作ですが、内容もさすがの出来栄え。
ある意味では予想通りというか、予想を上回る展開はありませんでしたが、逆に言えば予想が裏切られることもなく、しっかりと観たかったものを観せてくれた作品でした。

ホラーやスリラー好きとしては、物足りなさを感じる部分もありました。
ただ本作は、PG12という点や内容からは、10〜20代の若い世代や、普段はあまりホラーを観ない層を主なターゲットとしているのは明らかです。
実際、X(当時はTwitter)などでも「ホラーは観ないけどこれは観てみたい → 面白かった」という意見をちょくちょく見かけたので、興行的にも評価的にも大成功であり、ホラーとしての物足りなさを批判するのはピント外れでしょう。
そもそも公式ホームページでも、ホラーではなく「制御不能サイコ・スリラー」と謳われています。

それらの主要ターゲット層もあってから、全体を通してライトなエンタテインメント感が強く感じられました
人間とAIの関係性、家族や友人といった人間性、ミーガンを取り上げられて泣き叫ぶケイディから見える依存の問題など、様々な現代社会的なテーマも詰め込まれていましたが、それらがメインとなることはなく、あくまでもメインはミーガンの魅力
常にミーガンに焦点を当てており、それが終始ぶれなかったからこそ、まとまりのある作品となっていたのではないかと感じました。
ゲームでいうところのキャラゲーみたいな作品。

ただその分、期待外れだったという意見も理解でき、自分もそのように感じている部分もあります。
本格的なホラーや深み、ジェームズ・ワンらしい意外な展開を強く期待していた人には、物足りないでしょう。

AI人形の暴走という点では、『チャイルド・プレイ(2019)』に酷似していますが、決してパクリや二番煎じの作品に落ち着くことなく強いオリジナリティを放っていたのも、その点に起因していると考えられます。
AIの危険性に関しては、ちょうどChatGPTが世界的に大きく話題になったのも、追い風になったでしょう。
一方で、説教っぽい社会派な作風というわけでもないので、気軽に楽しめるのが最大のポイントです。


両親を失った少女ケイディと、ケイディを引き取った叔母のジェマが人間側の中心として描かれ、その2人の関係性も描かれますが、そのあたりの展開はかなり突飛というのを超えて相当にご都合主義的でした。
その点を含め、セキュリティ関係はガバガバだったりと、細かい部分では無数にツッコミポイントもありましたが、本作はあくまでもミーガンを楽しむエンタテインメント作品であり、それらをマイナスポイントとするのは野暮というもの

ただその分、全員キャラクタは立っていながらも、人間側の魅力がやや乏しかったところが、少しもったいないポイントでもありました。
その中では、ミーガン開発の仲間2人は『ハッピー・デス・デイ』を彷彿とさせるようなコミカルさで、出番は少なめながらも好きでした。
爆発に巻き込まれたのに酸素マスクをしながらジェマの家に駆けつけたのは、さすがに笑ってしまいました。

そしてどうしても一つだけ言いたいのは、相変わらず、セラピストの描かれ方、ひどすぎる……(´;ω;`)


本作は、ケイディが両親の死を乗り越える作品でも、ジェマが保護者としての役割を獲得していく作品でもありません。
終盤での唐突すぎるジェマとケイディの信頼関係の構築は、意図的に細かい過程をすっ飛ばしたものと考えられます。
心理用語である「愛着」にもわざわざしっかりと触れられていたのは、「ちゃんとわかってるけど、本作ではその過程を丁寧に描きたいわけではないから飛ばすよ」というメッセージとして受け取りました。
このあたりも上手い。

そのため、あえて深く心理学的な考察をするものでもないので控えますが、少ない描写の中で極力それらの点も描こうとしていた努力も見られます。
ジェマとケイディ絡みの心理描写で特に秀逸に感じられたのは、セラピストが家に来て、ジェマとケイディが遊ぶ様子を観察するシーンでした。

あのシーンでジェマは、ケイディが家に来た当初「これは遊ぶ用ではない」と言ったおもちゃを開封します。
それはもちろん、セラピストの目を気にしてのことです。
ケイディもしっかりと空気を読んで「遊ぶつもりはない」と言っていたのに、セラピストが来た途端、ジェマがあのおもちゃを開封しているのを見て、どれだけの不信感を抱いたことでしょう

あのシーンだけで、ジェマがどれだけケイディに(物理的にも心理的にも)目を向けていないかが明らかになります。
そしてそれが、ミーガンに関するケイディへのインタビューでの「ミーガンは本当に大切なものを見るように自分のことだけを見つめてくれる」といったような主旨の発言の重みを際立てていました。

子どもが求めているのは、情緒的な関わりです。
描かれていた限りでは姉が死んでもさほど悲しむ様子もなく、ケイディとの関わり方に戸惑いながら仕事にのめり込む姿からは、ジェマは明らかに情緒的な感性が乏しい人物像として描かれていましたが、そんなジェマが作ったミーガンの方が情緒的なアプローチでケイディの心を開かせていったのは、非常に対比的でした


果たしてAIは感情や情動を持ち得るのか?というのは大きすぎるテーマなのでここでは深入りしませんが、ミーガンはそのあたりのバランスも絶妙でした。
というのは、言動や表情についてです。
言動に関しては、明らかに学習されたもので「計算された情緒的な関わり」だったはずですが、実際にケイディは温かさを感じていました。
また、表情や見た目に関しても、明らかなロボットというほど無機質ではなく、かといって人間と見間違うほどリアルでもない。

見事に人間と機械の中間に位置するような造形や言動が、その境界を曖昧にし、ミーガンを独自の存在として確立させていたように思いました。

そしてそこが、本作がバズった要因にもなっているはずです。
唯一無二の存在であるミーガン。
可愛いですか?
よく見てください、本当に見た目だけでそんなに可愛いですか?
作品を観る前から、あるいはダンスしたりする予告を見る前から「この子とんでもなく可愛い!」と思っていましたか?
でも、観終わった人の多くは、最強ヤンデレお茶目なミーガンの可愛さの虜になっています。


意味のないスタイリッシュさやエンタメ性も、最近のジェームズ・ワンの特徴であり、本作の魅力でもありました。
『マリグナント 凶暴な悪夢』のスタイリッシュアクションには度肝を抜かれましたが、ストーリー上は何の意味も必然性もないにも関わらず、「あのシーンだけでももう一回観たい」という満足度を与えてくれました。
脚本も同じアケラ・クーパーというのもあってか、『M3GAN/ミーガン』もそのような「全然必要ないのに最高なシーン」が非常に印象的

ダンスする必要もなければ、わざわざ外ではコートを着たり色々なファッションを見せる必要も、犬のように四つん這いで走る必要も、最後にバグって不気味な動きになる必要も、バラエティに富んだ殺し方をする必要もありません。
しかし、それらの要素こそが「映え」に繋がっており、ミーガンの個性と魅力を大幅に高めていました
若い世代をターゲットにした作品だと上述しましたが、映えによるバズりも計算されたものだと考えると、なかなかに末恐ろしい作品です。
いわば、ミーガンは映画界のインフルエンサー(というかVTuberとかの方が近い?)のよう。

極端なまでに保護者として機能していないジェマも、イライラさせる要素しかなかった隣人おばさんも栗拾いの少年も、何の役にも立たないセラピストも、完全にミーガンのヤンデレ度を強調するための当て馬でしかありません。
あらゆるシーンが「ミーガンを魅力的に見せるため」だけに作られているように感じました。
もはや本作はホラー映画でもスリラー映画でもなく、ミーガンというホラー界の新アイコンとなる歌って踊れるアイドルを売り出していくための一大プロジェクトなのではないでしょうか。
しかもそれが押しつけがましかったりゴリ押しなわけではなく、しっかり楽しませてくれる。

その意味では『テリファー』も、ホラー界の新アイコンでアイドル(?)であるアート・ザ・クラウンの魅力を押し出すための映画と言えます。
コアなホラーやスプラッタファンには、アート・ザ・クラウンの方が人気かもしれません。
ホラー界にもまだまだ新しいキラーが登場してくれて嬉しい限り。

バックアップを盗まれていたり、ボディは壊れてもミーガン自体が失われていないことを示唆するラストだったり、続編に活かせそうな要素もたっぷり。
実際、早くも続編『M3GAN 2.0(原題)』の企画は進行中で、主要なスタッフやキャストも変わらないようなので、楽しみに待ちたいと思います。

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