【映画】マーダー・レコーズ 殺人ドキュメント(ネタバレ感想・考察)

映画『マーダー・レコーズ 殺人ドキュメント』のジャケット
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作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)

ビデオカメラを購入した映画監督志望のジェニファーは、夫のファーハンと共に日常を撮影し始める。
ジェニファーは買い物に訪れた店で殺人シミュレーションを語り始め、ファーハンもそれを面白がるが、やがてジェニファーが計画を実行に移してしまい──。

2016年製作、カナダの作品。
原題は『Capture Kill Release』。
「殺しの記録の公開」的な感じなので、だいたい「マーダー・レコーズ」「殺人ドキュメント」とどれも同じような意味合いです。


さて、本作は『テイキング・オブ・デボラ・ローガン』『REC/レック』『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などのような、POV方式のモキュメンタリー作品
ビデオカメラで撮影された映像だけで物語が進む、ドキュメンタリーと思わせるような作りの作品です。

テーマとしてはタイトル通り、いわゆるスナッフフィルム(Snuff film)を模したものとなります。
スナッフフィルムは、娯楽用に撮影された本物の殺人の映像です。
実際にダークウェブ上では出回っているとかいないとか。

『マーダー・レコーズ 殺人ドキュメント』では、娯楽目的で流通させるつもりだったとは思いにくいので、厳密にはスナッフフィルムとは異なるかもしれません。
ただ、いずれにせよ「殺人を撮影したかった夫婦(主に妻)の話」ですべてが表現できる作品です。

一般的に考えればどう考えても趣味が悪いですが、趣味の悪い人間なのでこういったテーマの作品は好きです。
ただ、どうにも中途半端というか、物足りないというか、頭空っぽなまま観られるけれど結局そのまま何も残らないというか……個人的にはちょっと残念な作品でした。
とはいえ、もともとそんなもんだろうと思っていたので、期待外れといったほどでもありません。


しかし、思った以上に殺人にいたるまでのシーンが苦痛でした。
89分のうち実に60分ほどはずっと夫婦喧嘩(たまにいちゃいちゃ)のため、「これは何を見せられているんだろう」と、まるで何かの修行かのように自分の内面に目が向き、じきに無我の境地に至ります
ああだこうだと色々計画したり言い合ったりしているわけですが、殺人を撮りたい理由もよくわからなければ、特に何か人物像やストーリーが深まるわけでもありません。

何より、奥さんのジェニファーが超自己中わがまま共感性皆無なので、ハイテンションに計画を進めていく姿についていくだけで精一杯
かといって、夫のファーハンが観客視点を代弁してくれるわけでもなく、「あんたもあんたでどうしたいん?」と言いたくなるほど言動に一貫性がありません

その意味では、ジェニファーはとてもわかりやすいです。
映画撮りたい!無断でビデオカメラ買っちゃった!殺人撮りたい!猫殺して練習しよ!ほらごちゃごちゃ言ってねぇで手伝えよ!ってかお前がやれよ!で一貫しています。
精神的に何かありそうですが、はっきりしません。
無理矢理何か想像するとすれば、共感性は皆無、小さい頃から猫にひどいことをして、嘘が多く、こだわりもありそうなので、サイコパスもありかもしれませんし、発達障害傾向か、パーソナリティ障害などでしょうか。

一方のファーハンは、最初はノリノリで殺人の準備を手伝っていたように見えました。
しかし、ジェニファーが本気であることを感じると、および腰に。
というか、けっこう最初からジェニファーは本気だと思ってたんですけど、ファーハンはそうでもなかったんですかね。
どちらだとしても、自ら浴室で肉を使ってシミュレーションしていた意味がわかりませんでした
殺人にノリノリだったとしたら、あとから「ほんとにやんのかよやめようぜ!」とひたすら抵抗するのも変ですし、冗談だと思っていたんだとしたら、それはそれでわざわざ肉で練習するとかその方が狂気だし。

とにかくファーハンの意思のなさが目立ちます。
もちろん演出上、ファーハンが本当に撤退するわけにはいかないですけど、ことあるごとに抵抗を示しながら、最終的にはジェニファーに従う。
何でやねん!と何度突っ込んだことでしょう。


『REC/レック』などにも書きましたが、POVのモキュメンタリーで難しいのは、「極限状態でも撮影を続ける理由」です。
「撮影してる場合じゃないだろ!」と思われたら終わりなのです。

その点でも、ジェニファーはとにかくわかりやすい。
殺人の前後も含めて、全部記録したい
それに尽きます。

しかしここでも、ファーハンがネックになります。
「もうやめようよ!」「撮るなよ!」と言いながら、決してカメラを切ることはなく、手渡されたらしっかりと撮影を続けます
最後の最後でようやく壊しましたが。


とはいえ、そのあたりはご愛嬌。
この作品の本筋は、いざ殺人!です。

あわれ被害者に選ばれてしまったホームレスのゲイリー(いい奴だったよな)は、睡眠薬入りワインによって昏睡させられ、地下室へ。
そこであっさりと、ジェニファーに絞殺されます。

あっさりと!

「え?」っていうぐらいあっさりと。
絞めてた時間めっちゃ短く感じましたけど、あとからジェニファーが編集したんですかねってぐらい。


首吊りの場合、全体重が首のロープから上方向にかかります。
そのため、頸静脈、頸動脈、椎骨動脈のすべてが閉塞し、脳が低酸素状態になって死に至るのです。
頸動脈および脛骨動脈が、身体から脳に血液を送る回路。
頸静脈は、脳から身体に血液を送る回路。
すべてが閉塞するため、首吊り死体の顔面は蒼白になります

一方、人が首を絞める絞殺の場合は、椎骨動脈まで塞ぐことができません
椎骨動脈まで閉鎖するには29kgほどの力が必要と言われているので、人間の手の力だけではそこまで絞められないのです。
このような絞殺死体の場合、顔は鬱血します

絞殺死体の特徴は「チアノーゼ」「鬱血」「溢血点」と言われていますが、ゲイリーの顔は普通の色でだいぶ安らかな表情でした。
首に絞め跡も見えません。

あまりにあっさりすぎたので、絶対にゲイリーが息を吹き返して大騒ぎ、みたいになると思いましたが、まったくそんなこともなく、しっかりお亡くなりになられていました

何の話をしているのか、といえばリアリティの話です。
リアリティなんか求めるな!というなら、じゃあこんな作品に他に何を求めるんだ!という話です。


その極めつけは、死体の解体シーン。

日本版、まさかの99%オフ!

というわけで、日本版では解体シーンのほとんどがカットされているようですね。
辛うじて、映像的に問題なさそうな場面が2回ほど映りますが、逆にぶつ切りで唐突過ぎて状況がわかりません。

これはもちろん、原作のせいではありません。
原作96分、Prime VideoやU-NEXTで表示されているのが89分なので、実に7分ほどにも及ぶ大幅カット

「スナッフフィルムを題材とした壮大な人間ドラマ」というわけでもないので、そこをカットされると、何を求めて観るものなのかわからなくなってしまいます。
リアルなグロ・ゴアを求めていなければそもそもこんな作品観ないでしょうし、そこからリアルなグロ・ゴアを取り除いてしまったら、果たして誰に向けた作品と言えるのでしょう


そんなゲイリーのシーンが終わってからは、さらに雑な感じになります
続く夫婦喧嘩。
余裕のカメラ目線でスタンガンを当て、「クソ女」と罵ってきた因縁の男性と、その不倫相手の女性を拉致するジェニファー。
最後には、『SAW』のジグソウばりに「選択」を迫り、不倫男性(名前すら出てこなかった)に絶望を突きつけます。

ていうか、不倫紳士もまぁダメ男っぽいですし、暴言を吐いたのはいただけませんけど、最初にぶつかったのは明らかに調子に乗って騒いでいたジェニファーが悪いですからね。
それで殺害までさてしまうのは、不倫紳士には同情の余地があります。
しかも、ぶつかったあとはビデオカメラで撮影されるという。
ぶつかられてイラッとしたのはわかりますが、変な人には無駄に関わらないのが一番です

振り返ってみれば、あんな理由でジェニファーはかなり不倫紳士に執着していました。
プライドもかなり高そうです。
映画監督も、本当に目指しているようには見えません。
自己愛性あたりのパーソナリティ障害の可能性も高まってきました。


そしてまさかの、夫婦喧嘩からの、ジェニファーにハンマーが当たっちゃった!
あれって、どうなったんでしょう?
もつれ合っての事故にしてはクリティカルヒット過ぎますし。
ファーハンがキレたにしては、映像ではあんまそんな感じではなかったですし。

ただ、このラストはそれなりに意外性がありました。
いずれにしてもハッピーエンドはあり得ませんでしたが、

  1. ジェニファーがファーハンも殺害する
  2. ファーハンがキレてジェニファーを殺害する
  3. 警察が来る

のどれかかなぁと考えていました。

1は、けっこう思わせぶりなシーンがあった気がしたんですけど、全然そんなことありませんでした。
まぁさすがにファーハンは仕事していますし、隠し通せないですからね。
しかしジェニファーならやりかねない

2は、ある意味当たっていましたが、こんな事故っぽいとは思いませんでした
もしかすると、カメラが回っているので、事故に見えるように演技しながら殺害したのでしょうか。
そうだとすれば、一気にファーハンがやばい奴ランキング急上昇。
でも、ジェニファーが死んだあと、「黙れっつってんだろうるせえなぁ!」とついでみたいに不倫紳士を殴ってとどめを刺す姿はしっかりとビデオカメラに映っていたので、演技説はなさそう。
ファーハンがキレて殺したのは、まさかの不倫紳士でした。


そんなこんなで、最初から最後までもやっとした感じが残ってしまう映画でした。
ただコンセプト的には嫌いじゃないので残念、というより、カットされたのを観たのも良くないですね。
いずれ機会があったらフルで観てみたいところ(前半は飛ばして)。
猫好きな方には、絶対に勧めてはいけません

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