タイトル:十三の呪 死相学探偵1
著者:三津田信三
出版社:KADOKAWA
発売日:2008年6月25日
他人に現れた死相が見える弦矢俊一郎。
大学卒業以後、神保町で探偵事務所を始めた彼の元に、初めての依頼人が訪れる。
だが、アイドル顔負けの彼女には死の影は全く見つけられず──。
オカルトホラー × ミステリィ × キャラ小説。
と、表現するのが一番適しているであろう本作。
死相が見える、社会性皆無の主人公・弦矢俊一郎を軸とした物語。
三津田作品には珍しく?キャラクタが先行する小説だけあって、作風はライトめ。
本格的な謎解きではないですし、ホラーが苦手な人でも楽しめる作りでしょう。
その意味では、刊行時期も近い櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』に似た印象もあり、『ホーンテッド・キャンパス』の感想にも書きましたが、やはりキャラ小説のブーム期だった影響もあるのかもしれません。
コミカライズもされているようですが、これも合っていそう。
とはいえさすがの三津田作品でもあり、ライトめながらしっかりとホラーミステリィしていたのも確かです。
要所要所でのホラー要素は恐ろしさもありますし、特に序盤の幼少期、地元で見かけた怪しい人影は印象的でした。
幼稚園児とは到底思えない大人びた描写は若干違和感がありましたが、そこは今の俊一郎が振り返って視点を重ねている、と解釈できるでしょうか。
ミステリィに関しても、特殊設定ミステリィに近いものがあり、「何でもありすぎて先の展開を予想しようがない」といったような作品ではなく、ある程度「ルールや規則性がある」点が俊一郎の思考などを通じて提示されていました。
実際、カウントダウンになっているのは謎解きの一歩手前で気づけましたし、何が起こっているのかまったく読めない中、ポイントポイントでは予想しながら読める楽しさもありました。
そして何より、しっかりとがっつりとオカルトしているところが好きでした。
実は勘違いとか、実は人の仕業だったとかではなく(人が起こした事件ではありましたが)、それはもうがっつりと呪いというオカルト。
そもそも「死相が見える」という設定から当然ではありますが、何でもありになりかねないオカルトの中で特殊設定ミステリィを成立させる技巧は、さすがの一言に尽きます。
オカルト × ミステリィとしては、本シリーズより後発の澤村御影の民俗学ミステリィ『准教授・高槻彰良の推察』シリーズに通ずる部分もありますが、本作の方がよりホラー&オカルト色が強く感じられました。
そして肝心のキャラもしっかりと個性が立っており、今後が気になります。
キャラ小説だと短編も多いですが本作は長編で、しかもほとんど入江家の中だけで展開されるにもかかわらず中だるみしなかったのは、キャラの魅力による部分も大きいでしょう。
もちろん、先が気になるミステリィ要素も大きいです。
本作においては、主人公の俊一郎や依頼人の内藤紗綾香以上に、入谷家の面々が好きでした。
それこそ古典的なミステリィのような、複雑な事情を抱えた大富豪一家というのも憎い設定。
個人的にはオカルト少女(という年齢でもないかもですが)冬子がけっこう好きだったので、死んでしまったときは驚きもあり残念でした。
ライトめなキャラ小説でありながら、入谷家の人々がガンガン死んでいく容赦のなさも好きなポイント。
しかし、「死相学探偵1」とあるように、シリーズ前提の作りのため、1作目だけで評価するのも難しいところ。
俊一郎の背景を説明する部分にも多くページが割かれており、まさに導入の第1章でした。
正直、俊一郎のキャラはいまいち合わなかったのですが、これからシリーズを通して成長していく過程を楽しむ要素がないといけないので、引っかかる点があるのは仕方ありません。
ただ、さすがに事務所で女性に服を脱がせるのも、脱ぐ紗綾香も、なかなかに常識外れまくり。
拝み屋として有名かつ警察などにもコネがある祖母、そして作家でサポートしてくれる祖父と、不器用な俊一郎が動きやすくするための設定もばっちり。
探偵ものはいかに警察と繋がりを作るかが難しそうですが、そのあたりも抜かりありません。
お祖母ちゃんのキャラは最高でした。
入谷家の事件における実質的な犯人・内藤紗綾香の動機は、まさかの遺産目当てというベタベタな動機でした。
母親の件があったので納得はできますが、やや拍子抜け。
とはいえ、最後にあからさまに思わせぶりな台詞(「真っ黒けの、本当に黒々とした禍々しい影に……気をつけて下さい」「弦谷俊一郎……あたなは避けて通れないと思います」)があったので、初めての依頼人ということもあり、さらに背後に何か動機が隠されている可能性や、再登場の可能性も感じられました。
本作のメインの事件である入谷家の事件は解決しましたが、トータルとして謎は多く残されています。
俊一郎にまつわる謎だけではなく、内藤紗綾香の謎も、十三の呪いをかけた呪術者の謎も明かされてはいません。
一つの作品として消化不良感が残らないとは言えませんが、最低限、本作で起こっていた事件は解決しています。
シリーズものでも1作ごとに完結していてほしいタイプですが、本作は特にタイトルに「1」とまでついており、1作ごとのシリーズというよりは全部で1作という構成であると考えられるので、第1章として読めば不満はありません。
本シリーズは2021年刊行の8作目『死相学探偵最後の事件』ですでに完結しているようです。
7作目まではすべて、タイトルに数字が入っているのも面白いポイント。
いずれゆっくり、追いかけてみたいと思います。
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