『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』の概要と感想(ネタバレあり)
タイトル:私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。
著者:日向奈くらら
出版社:KADOKAWA
発売日:2017年11月25日
2年C組の問題の多さには、呆れますね──教頭の言葉が突き刺さる。
また私のクラスの生徒が行方不明になった。これでもう4人だ。
私はその失踪にあの子が関係しているのではないかと恐れている。
宮田知江。ある時から急に暗い目をするようになった女生徒だ。
私は彼女の目が恐い。
でもそんなことは、これから始まる惨劇に比べれば些細なこと。
なぜなら私は、夜の教室で生徒24人が死ぬ光景を目にすることになるのだから──。
初読みの作家さん。
というより、漫画の原作なども手がけているようですが、小説としては本作が1作目であり、本作以降も2024年8月時点では2作目の『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』しかないようです。
別名義で活動されていたりもするのかな。
それはさておき、懐かしさすら感じるような、デスゲームもののラノベあるいは漫画のようなタイトル。
実際、本作はコミカライズもされているようです。
似た系統のタイトルとしては、比較的最近読んだ中だと黒田研二『ワゴンに乗ったら、みんな死にました。』が浮かびましたが、『ワゴン〜』がバリバリのデスゲームものだったのに対して、『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』はデスゲームものというよりはミステリィ要素が強めでした。
まずトータルの感想としては、何だかんだこういった系統の作品は好きなので、楽しめました。
今や食傷気味とはいえ、タイトルも序盤のインパクトもしっかりと吸引力があり好み。
しかし、こういった系統の作品の中で上位に食い込むかと言えば、正直そこまでではありませんでした。
大きなポイントとしては、肝心となる部分の設定が現実離れしていたのが要因でしょう。
そもそもこの設定が合うかどうかが、本作の評価を分けそうな気がします。
もちろん、そもそもデスゲームものにリアリティなど求めていません。
ただ本作は、謎を追うミステリィ要素がメインでもあったので、警察の捜査など現実的な観点で進んでいく展開と超常現象のギャップが大きく、そこがちぐはぐな印象を受けてしまいました。
序盤の生徒24人死亡のシーンからしてすでに人間業ではなく、現実的な説明はつかなさそうな設定であることは窺えます。
なので、それ自体はそういうものとして受け入れて進むにせよ、超常的な現象だとすると「何でもありだしなぁ」といった感じになってしまい、あまり「真相が気になる」という気持ちにはなれませんでした。
「悪魔の目」以外は超常的な設定がなかったのは良かったのですが、それにしても登場人物全員の言動が理解に苦しむものだったために没入できなかった感も否めず。
デスゲームものはすでに溢れんばかりに量産されていますし、冒頭こそ理不尽な不可解さが楽しめても、その真相や着地が非常に難しいのもデスゲームものの事実で、先に進むほどめちゃくちゃになってしまう作品も少なくありません。
その点、本作は「悪魔の目」だけに超常現象を絞り、その他は現実的な展開をベースとしていた点は、あまり触れたことがないパターンだったので楽しめました。
ただ、デスゲーム、スプラッタ、ミステリィ、悪魔の目という超常現象、といった様々な要素を組み合わせた点が、オリジナリティ高く評価できるとも言えますし、どれもがちょっと中途半端で物足りなかった印象も受けてしまいました。
謎解きがメインというほどのミステリィ作品ではありませんでしたが、真相も宮田知江が絡んでいるだろう、その原点はいじめ被害者のオフ会だろうというのは早々に予想がつきますが、その予想を大きく上回るような展開はありませんでした。
デスゲームとしても肝心の生徒24人の狂宴シーンは省かれていますし、香織母娘が殺し合うシーンはインパクトがありましたが、強烈なスプラッタというわけでもありません。
「悪魔の目」も特にオリジナルの設定が深掘りされるわけでもなく、「そういうもの」として受け入れるしかありません。
それらの点が個人的には、色々詰め込まれていたチャレンジングな作品だけれど、どれもちょっと中途半端で物足りなく感じてしまいました。
これはもちろん好みの問題で、個人的にはどれかに尖った作品が好き、というのが原因でしょう。
こういった作品の割には最後まで話もしっかりまとまっていましたし、相性の問題です。
細かい点含めてツッコミどころ満載ですが、それらに茶々を入れるのは野暮であることはわかっています。
それでも、コアとなる部分でもどうしても引っかかってしまう点が多かったのも事実。
父親から性的虐待を受けていたというだけで、こんなにも全員がよってたかって強い悪意でいじめるか?とか(念のため、「だけ」というのはもちろん虐待を軽く見ているのではなく、クラス全員からここまでの悪意でいじめられる理由として、という意味)。
野々村刑事、さすがに暴力性が極端すぎますし、よくこれまで問題起こさずに生きてきたな、とか。
佐野麻耶は、どうやって1人でファスナーのスーツケースの中に入ったんだろう、とか。
人間の悪の部分というのは本作の大きなテーマにもなっていたと思いますし、それを取り扱った作品はとても好きです。
しかし、それがどうにも深掘りされずに極端化されているというか、野々村刑事や不良の木村浩介を筆頭に「ただただヤバい奴ら」ばかりが登場していた印象です。
いじめのエスカレートに関しては、宮田知江もある程度悪魔の目の力を受け継いでおり、周囲はその影響を受けていたのでより陰湿になっていた、と捉えられなくもありません。
それでも、それ以前のいじめについては説明がつかないので、実はクラスと吹奏楽部全員がもともとヤバい奴らだった、としか言いようがありません。
担任の北原奈保子視点も、常に現実逃避しながら後悔や言い訳、自分に問題があるのはわかってるんですよアピールばかりしているように感じられてしまい、少々疲れてしまいました。
そして、本筋とは関係ないといえばないのですが、とにかく気になったのは、死んでしまった窪寺刑事。
彼、死んだあとで普通に捜査本部にいたんですよね。
おかしくなった野々村刑事が捜査本部に乗り込んだ際、驚いたり、果ては暴れる野々村刑事を羽交い締めにしていました。
野々村刑事の幻覚だった可能性もなきにしもあらずですが、その後の警察関係者の言葉からは野々村刑事が捜査本部に乗り込んできたのは現実のようですし、ミスの可能性の方が高いような……。
というわけで、はい、ちょっと挙げ始めるとネガティブな面ばかりになってしまうので止めておきましょう。
あまり細かく考えたり考察したりしてはいけない、勢いを楽しむべき作品です。
さらっと読むには何だかんだ楽しめましたし、キャラの背景は薄っぺらく感じてしまいつつも「結局、登場人物ほぼ全員がヤバい奴らでしかなかった」という救いようのなさも、何とも言えない読後感があって好きでした。
ただ、精神科医が診察の様子を盗撮していたというのは、不信感を煽りかねないのでやめてほしかったところ。
実は、この感想を書くのが遅れてしまい、次作の『私の友達7人の中に、殺人鬼がいます。』もすでに読み終わっているのですが、こちらも大量にツッコミポイントはあれど、本作より圧倒的に楽しめました。
何だかんだこういった作品が好きなので、もし今後も新作が出るようであれば、読んでみたいと思うのでした。
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