作品の概要と感想(ネタバレあり)
田舎町でひとり農業に勤しむ田中淳一のもとに、ある日、別れた妻の爽子と東京で暮らしているはずの小学生の息子・一也が突然ひとりで訪ねてくる。
しばらくの間、淳一と一也は一緒に暮らすことになるが、ちょうどその頃、近くの森では不可解な怪奇現象が立て続けに発生し、町でも住民の不審死や失踪事件が相次いでいた。
そして淳一と一也も、得体の知れない“それ”を目撃してしまい──。
2022年製作、日本の作品。
……。
……。
何を言えばいいんだ!
と、思わず叫びたくなってしまうような、ぶっ飛びエンタテインメント作品でした。
というか、どういうスタンスで向き合うのが正解なのでしょう。
純粋に「ホラー映画としてはいまいちで、あまり怖さも感じられず、登場人物の突飛な言動が目立ち……」みたいなことを語るのが間違っているのはわかります。
ホラーとして観るには、明らかに怖くない。
SFとして観るには、設定があまりにも雑。
家族の再生物語とも言い難い。
『学校の怪談』みたいに子ども向けの作品かというと、そういうわけでもない。
中途半端さを強引にまとめ上げ、明らかにホラー映画にそぐわない相葉雅紀のヒーリングオーラによってすべてを中和してくるような新感覚で、それこそ「本当に宇宙人を目撃してしまったらこんな心境なのでは」と思わされるような作品でした。
いや、誤解を恐れず正直に言いまして、出来はなかなかひどいと思うんですよ。
展開も、演技も、CGも。
なのに、「まぁまぁまぁまぁ」という相葉くんのなだめる声が聞こえてくるかのようで、なぜか憎めない。
あまりにも不思議な作品です。
製作の1人に藤島ジュリーK.の名前があったのは、やや複雑な心境。
監督は改めて言うまでもなく巨匠・中田秀夫ですが、近年の『事故物件 恐い間取り』や『禁じられた遊び』で、『リング』のような古き良きジャパニーズ・ホラーを期待してはいけないことは理解していました。
しかし、それを踏まえた覚悟を上回ってくるぶっ飛び作品で、もはや清々しく愛おしい。
『事故物件 恐い間取り』や『禁じられた遊び』は原作がある作品ですが、『“それ”がいる森』は完全にオリジナル作品なので、今の時代、オリジナルのホラー映画というのはそれだけで応援したい。
そして、予算も厳しいであろう邦画ホラー業界において、オリジナル作品としてこんな作品をぶち込んでくるなんて、中田秀夫監督じゃなきゃできません。
中田秀夫監督のインタビューでは、以下のように語られていました。
日本人もハロウィンで仮装したりして、ホラーをエンタメとして捉えるようになっているなと思い至りました。
https://cinemore.jp/jp/news-feature/2663/article_p1.html
要するに息を潜めて映画館で体を硬くして怖がっているだけではなくて、自分たちが「貞子」や、「俊雄」の扮装をして街を練り歩いて楽しんでいる。
だから、もっと能動的な表現で、真面目一辺倒のホラーではないものが良いのではないかと。
『禁じられた遊び』でも同じようなことを語られており、新たな表現を模索している姿勢が窺え、近年の方向性も理解できました。
なので、好き嫌いはあれど、『リング』の頃は良かったのに、みたいな批判はやはり見当違いなのだと思うので、自分にも戒め。
若干迷走している印象も否めなくはありませんが、そもそも中田秀夫監督は「本当に撮りたいものはホラーではない」と公言しています。
本作も、『事故物件 恐い間取り』のヒットを受けて企画が舞い込み、内容は脚本や製作の方々と一緒に考えていったようなので、そもそもが「こんな恐怖映画を作りたい!」という熱量のあるスタンスではないため、色々とチャレンジングな試みができるのでしょう。
ちなみに本作は、エンドロールでも映像が流れていた福島県の千貫森という場所が舞台となっているようでした。
ここでは実際にUFOの目撃例が多いらしく、それもあって本作のような宇宙人の方向性になったのでしょう。
「“それ”の正体って……宇宙人なんかい!」と肩透かしを食った方が大多数だと思いますが、それを察してか、かなり序盤から「すんません、不気味な謎の怪異とかじゃなくて、すんません」といった感じで姿をチラ見せしてくれるので憎めません。
しかし、今の時代にここまでどストレートな宇宙人モノも珍しい。
しかも外見は、超古典的というか、テンプレイメージの強いグレイ・タイプの宇宙人。
日本のホラー映画で、ここまで直球に宇宙人を取り扱った作品も珍しいのではないでしょうか。
と思わせて、口元の気持ち悪さとか食虫植物みたいになるところとか、謎の歩き方は好き。
個人的には、『学校の怪談』のようにティーンエイジャー向けにもっと振り切っても良かった気がします(一応、メインのターゲット層は「小学校の高学年から中学生、高校生が中心」のようですが)。
子どもが容赦なく犠牲になるところは尖っているので、小さい頃に観たらトラウマになり得そう。
音楽はだいぶ主張激しめでしたが、あまり合っていなかったような。
大人としては、とにかくツッコミながら愛でるのが正しいのではないかと思っているので、後半はひたすら突っ込んでいきたいと思います。
もやもやを吹き飛ばせ!(ネタバレあり)
5分に1回はツッコミどころがあると言っても過言ではない本作。
あくまでも否定的なニュアンスではなく、楽しみながら突っ込んでいきましょう。
一応作品の流れに沿っていますが、思いつくままに。
ちなみに、“それ”こと宇宙人くんですが、公式による特設サイトの企画で名前を募集し、ネーミング大賞として「てんてん」が選ばれていました。
「天源森の「てん」と、“それ”がやってくる?!「天」、のダブルミーニングが高評価」とのコメントで、この時点でツッコミどころしかありませんが、以下、せっかくなので“それ”のことは「てんてん」と呼びます。
まず小物の悪党が犠牲になって物語が始まる定番、良いですね。
パンサー尾形が良い味出してました。
しかし、裏社会事情は知らないので常識がわかりませんが、盗んだ大金、あんなところに一旦埋めようとするでしょうか。
子どもも余裕で入ってくるし、熊も出るし。
人間なり熊なりに簡単に掘り起こされそうで、自分だったら気が気じゃなくて眠れなくなりそうです。
なくなっていないか毎日確認に行って捕まっちゃいそう。
あと7,500万円って、重さにすると7.5kgオーバーです。
パンサー尾形演じた尾花なるキャラ、まるでスクールバッグかのように片方の肩にかけて余裕で背負っていましたが、実はめちゃくちゃ怪力なのかも。
まぁ、量も少なく見えたので、盗んだお金全部をあそこに隠そうとしていたわけではないのかもしれません。
家出して、いきなり東京から福島まで1人で来る一也くんすごい。
そして淳一の家が離散することになった理由、よく考えるとだいぶ適当設定じゃありませんか?
本筋と関係ないので省略されているのは良いのですが、あんなに事なかれ主義の淳一と爽子パパの間に一体何があったのか気になります。
それで家族別々に暮らして3年も会ってないのもすごい。
いきなり怒鳴る淳一はけっこう怖かったので、普段溜め込みすぎて急に爆発するような情緒不安定な側面もあるのかも。
転校初日、東京者の一也への当たりが強い中、前の席の祐志くんが振り返って睨んできたときは「この子怖い!やばそう!」と思いましたが、実はめっちゃ優しくて面倒見が良かったの、笑いました。
人を見かけで判断してはいけません。
簡単に乗り越えられそうな柵を、わざわざ木の棒を外して潜り抜けるところとか可愛い。
その一方、てんてんが現れたら速攻連写で撮影する抜群の判断力。
それなのに……。
祐志くん……。
秘密基地の落とし穴、2人とも落ちたら這い上がるのは相当厳しそうな深さに見えましたが、次のシーンではあっさり抜け出していましたね。
絶対伏線なんだろうなと思った落とし穴、予想通り活躍しましたが、予想以上に役立たずでした。
一也のスマホ、電池切れていたはずなのに、倒れていた場所で位置情報を発していたの、優秀すぎます。
しかも、とても厳密に場所を特定してくれる万能GPSでした。
警察も教頭も、絵に描いたような嫌味たらしさ。
町長の頼りなさもいじめっ子の言動も、だいぶ古典的な描かれ方でした。
祐志くんが親のスマホを持っていたはず、というのは普通に考えれば親から捜索隊にも情報が伝わっているでしょうが、それすら見つけられなかったザル捜索。
しかし、祐志くんの親はまったく出てこなかったところは若干闇深い。
そんな祐志くんのスマホを見つけたのは淳一でしたが、子どもの落書きのような一也が描いた地図を見て「この辺なんだけどなぁ……」とかなり範囲を絞っていたの、探し物のプロ。
家から攫われた麻友ちゃん。
2月の福島なのに、外で警察に事情を聞かれていたお母さん、かわいそう。
家の中で聞いてあげて。
そして、何も悪さをしていないのに撃ち殺された熊もかわいそう。
というか、普通に冬眠から目覚めてたのでしょうか。
それはそれでめちゃくちゃ危なかった。
地元の警察、一般市民にわざわざ事件の情報を電話してくれるの、非常に丁寧で非常に問題。
そして満を持し、ついに動き出したてんてん軍団。
しかしまず、てんてんの知能がかなり低そうなところが気になりました。
グレイ・タイプの宇宙人といえば、人間を誘拐(アダプション)して解剖したりして生態を調べ、記憶を失くして戻す、といったようなエピソードが多い印象。
それがあんなにお馬鹿でのろまな感じだとは。
襲撃シーンなどは、『ジュラシック・パーク』あたりと大差ありませんでした。
ワンチャン、ヴェロキラプトルの方が知能高そう。
しかし、町一帯を停電させ、電話まで使えなくさせた謎衝撃派の科学力は凄まじい。
知能があるんだかないんだかよくわからない。
人間の物差しで考えてはいけないのでしょうか。
あと体育館地下に逃げ込んだ絵里先生や児童たちを追い詰めたとき、ご丁寧にドアをノックしていたのは笑いました。
捕まえた子どももその場では食べずに家(UFO)に持ち帰って食べていましたし、マナーが良い。
子どもを食べて成長したり増殖したりする、だから大人は殺害するという設定を、「成長板」だけで押し切る力業も憎めません。
60年前に地球に来て、それから再来までに60年もの時間が空いているのも、謎。
淳一推理では「60年前、地球環境に適合する抗体を作るために人間を拉致して調べた」とのことでしたが、調べ終わって抗体を作るまでに60年かかったのかな。
そして今回改めて侵略しに来たけれど、植物の細菌に負けてしまった、と……?
エピローグ的な「1ヶ月後」のラストシーンは、恐ろしいまでにほのぼのしていました。
大人も子どももかなりの数が犠牲になったはずですが、みんな何事もなかったのかのようにすっかり日常を取り戻している様子。
いつまたてんてんが来るかもわからないのに、「爽子、仕事辞めてこっちに来ないか?」「私も同じこと言おうと思ってた」「「あっはっは」」なんてもう狂気。
もしかすると、みんな記憶を失っているのでは……?
祐志くんのことも、引っ越したぐらいにしか認識していないのでは……?
そうだとすればだいぶ恐ろしい終わり方ですし、逆に覚えていてあのほのぼの具合も怖い。
どちらにしても実はしっかりと恐ろしい終わり方をしているホラーだったのかもしれません。
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