作品の概要と感想(ネタバレあり)
クリスマス休暇を満喫する大学生たち。
そこへ不気味な覆面を被った殺人鬼が現れ、学生たちを次々と惨殺していく。
女子学生のライリー、クリス、マーティ、ジェシーの4人は怯えながらも、武器を手に取り殺人鬼と戦うことを決意する。
2019年製作、アメリカの作品。
原題も『Black Christmas』。
本作は、1974年製作のカナダの映画『暗闇にベルが鳴る』(こちらも原題は『Black Christmas』)という作品のリメイクとのこと。
原作は未鑑賞なのですが、原作はカナダやアメリカでメジャーな「ベビーシッターと2階の男」という都市伝説がモチーフとなっているようです。
「ある女性宛にいたずら電話があり、徐々に殺人を仄めかすようになったので警察に電話したが、警察が逆探知したら女性の家の2階から電話がかかってきていた」みたいな都市伝説らしいのですが、『ブラック・クリスマス』はだいぶその都市伝説からは離れていそうですね。
さて、個人的に信頼度が高く好きな作品の多いブラムハウス・プロダクションズが製作に関わっている作品ですが、本作は残念ながらちょっと合わず、終始退屈に感じてしまいました。
一番引っかかってしまったのは、フェミニズムが主軸に据えられていた点でした。
いや、フェミニズムが取り上げられること自体は別に良いのですが、その描かれ方ですかね。
「女性は男性に服従するべきだというレイシスト男性」と「男性はすべてクズだから戦うファイター女性」という、あまりにも極端な主張しか持たない男女の対立。
もちろん、性犯罪を犯したり、冤罪で相手を陥れたりというのは論外ですが、お互いこんなに極端な理論を振り翳して批判的かつ攻撃的だと、観ている側としてはどっちもどっち感が出てきてしまいます。
原作はどうもフェミニズム的な要素が含まれているわけではないようなので、リメイクする時代に合わせたテーマを取り入れてリメイクするのは良いと思うのですが、何だか「とりあえず取り入れてみました」感が否めませんでした。
フェミニズムに関する個人的な考えをここで述べてもロクなことはないと思うので省きますが、何というか、少なくとも本作において求めていたような要素ではありませんでした。
ちょうど最近、現実世界でこのあたりの議論が活発化しており、見ようとしなくても極端な意見(釣りも多そうですが)が目に入ってきて疲れたりすることも多く、食傷気味なのもあるかもしれません。
レイプ被害を受けた主人公ライリーが男性不信になるのはもっともですが、それもどうにも取ってつけたような設定感がどうしても拭えませんでした。
何だか、まともな登場人物はランドン(ライリーに恋していたメガネの男性)ぐらいしかいなかったような。
ちなみに本作、登場人物が全然覚えられませんでした。
「謎の侵入者に突然襲われる」という構図の作品は『KRISY クリスティ』や『サプライズ』など枚挙に暇がありませんが、そのようなスリラー作品としてもちょっといまいち。
侵入者たちがどう考えてもワープしているようにしか思えないので、「何でもありやん」感が湧いてきてしまいました。
このあたりのバランス、難しいですね。
殺し方も、個人的にはさっぱりしすぎていてちょっと物足りず。
冒頭でリンジーが襲われるシーンは、つららで刺すところとか、抵抗した際の腕の動きでできた雪の跡が天使の羽っぽかったりとか、とても芸術的で好きだったのですが、そこで上がった期待値がネガティブに働いてしまいました。
最後の大乱闘シーンも何だかぐだぐだで、リンジーが襲われるシーンをピークとして全体的に盛り上がりに欠けてしまっていた印象。
しかも背景にあったのは唐突な黒魔術という、「お、おぉ……そっか……」と若干戸惑いながら受け入れるしかない設定。
そのあたりもうまく活かせていれば良いのですがそうとも言えず、DKOなる男子組織も何がしたかったのかいまいちわかりませんでした。
「女性は服従するべき。服従しないなら殺す」みたいな価値観で暴れ回りましたが、あのまま成功して翌日を迎えたところで大事件で大騒ぎでしょうし、長期的な目的もはっきりしません。
そもそも、女性への脅威を予見したためにあんな黒魔術を残してこの世を去ったというホーソーン大学の創立者ホーソーンさん、女性関係で一体何があったの……。
クリスマスという設定もあまり活かされていた感じはありませんが、雰囲気が良かったです。
あれで平日だったらだいぶ絵面も地味になってしまったと思うので、煌びやかでした。
クリスマスだからあの黒魔術が発動できた、みたいな裏設定もあったのかな。
ただ、DKOが暴走したのはダンスでライリーたちが告発(?)した動画の拡散にキレたブライアンがきっかけみたいな描かれ方だったので、そうだとすればクリスマスになったのはたまたまですし、ライリーたち以外の女子学生も襲われていたのが若干謎。
いずれにしても、フェミニズムを取り上げたりしたのはリメイクでの追加設定なので、そこに整合性や細かい背景は求めないにしても、じゃあそこは置いておいて突然の侵入者たちに襲われるスリラーとして楽しめば良いかというと、そこもどうにも中途半端感が否めませんでした。
社会派としては荒すぎますし、スリラーとしては物足りませんし、最後にクズ男性陣が丸焼きにされて爽快感があるかというとそうでもない。
という、全体的に中途半端に感じられてしまったのが、個人的な残念ポイントでした。
力と暴力で支配しようとする男性と戦う女性、という構図が、すでにそんな男性側の土俵に上がってしまっている気がしました。
いきなり襲われたので否が応でも戦わないといけなかったというのはありますが、最後に燃えるDKO寮を見上げるライリーの満足気な表情は、何だか結局同じような価値観に染まってしまったように感じてしまいました。
と、個人的にはちょっと残念に感じてしまった作品だったのですが、内容とは関係ないところで熱かった1点。
解任の署名を集められおり、DKOのボスっぽい存在だったゲルソン教授、顔に激しく既視感があったのですが、大好き大好きな『ソウ』のローレンス・ゴードン医師役を演じていたケイリー・エルウィスでした。
2010年の『ソウ ザ・ファイナル 3D』ではちょっとふくよかになっておられましたが、本作ではしゅっとした感じに戻っていました。
何回も観ている『ソウ』のゴードン先生イメージが強すぎて、『ソウ』シリーズ以外で見たのが初めてだったので、何だか不思議な感じでした。
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