作品の概要と感想とちょっとだけ考察(ネタバレあり)
芸術家のジェフ・ヴァンは妻マギーから離婚を切り出され、8歳になる娘ジェニーの親権をめぐって激しく争っていた。
罵り合う両親の姿を見たジェニーは心を痛め、空想の世界に没入することで寂しさを紛らわせていた。
そんなある日、マギーが轢き逃げ事故に遭い、亡くなってしまった。
しばらくして、ジェニーは人形のような怪物を目撃するようになった。
しかも、その怪物はジェフが描いた作品のキャラクターにそっくりな姿をしていた──。
2021年製作、アメリカの作品。
原題は『Separation』。
邦題は何だか入り乱れているようで、『邪悪は宿る』だったり『セパレーション 魔物の棲む家』だったりしています。
separationは分離や離別といった意味で、まさに本作を象徴する単語ですが、それだけだと邦題のインパクトとして弱いのは確か。
とはいえ「邪悪は宿る」はなかなかに意味不明ですし、「魔物の棲む家」も何だか違う感じですが、まぁまぁそこは置いておきましょう。
ホラーを基調とした家族再生の物語。
……と言いたいところですが、どうもそういう感じでもありません。
結局母親のマギーは死んでしまいましたし、父親のジェフと娘のジェニーの絆は深まりましたが、「ようやくスタート地点に立った」に過ぎない感も。
マギーの生前は夫婦喧嘩ばかりで、それこそ離婚目前までの状態に。
2人ともジェニーと向き合えてはいませんでした。
そんな中、車に撥ねられ死んでしまい、霊(?)と化したマギー。
彼女は死してなおジェニーを我がものにしようと?守ろうと?していましたが、そのドタバタを経てようやく妻と娘と正面から向き合えたジェフ。
しかし、どうにも鈍臭いというか、頑張っているんだけど空回りがちというか、憎めないんだけどピントがずれているというか、色々ともどかしいジェフの努力というよりも、ジェニーが本心をぶちまけたおかげで何とか解決した、という様相。
「2人とも親失格だよ」「私はママとパパが欲しいだけ」とまで言わせてしまうのは、何とも情けない大人たちでした。
親権を巡って争うジェフとマギーは、「ジェニーのため」と口では言いながらも真にジェニーの気持ちは考えていませんでした。
そしてそこに割り込んでくるマギーの父親ポール!
さらには意味不明に乱入してくるサマンサ!
事態は無駄にややこしく複雑に。
サマンサは、最初から距離が近すぎて怪しい感が漂いまくっていたので、「ブレーキ痕がなかった」あたりで真相は何となく見えてきてしまいます。
ジェフは特にサマンサに対して好意を抱いていなかったようですが、そこも鈍感というか無神経すぎましたね。
最初、ジェフとサマンサの2人が夫婦あるいは親子なのかと思う距離の近さでした。
サマンサはヤンデレの極みで、自ら車でアタックするところは凄まじい度胸と行動力。
ジェフへの好意も、マギーの殺害も、猪突猛進という言葉が似合います。
何となく表情の圧が強かった気がしますが、目を見開くと三白眼どころか四白眼気味だったからでしょうか。
バレたと悟った瞬間の変貌ぶりもとても潔い。
全体的に画はとても美しく、日常の風景が崩れていく様相の表現の仕方なども見事でした。
本作の監督は、『エスター ファースト・キル』の監督も務めたウィリアム・ブレント・ベル。
『エスター ファースト・キル』も映像が美しかったので、監督の得意とするところなのでしょう。
一方、ストーリーは、それほど波はない割にいまいちわかりづらく、スローペース。
結局、何が何だったのかも少々わかりづらく、考察するにも明らかに情報が足りていない感覚です。
画の美しさと、ジェニーを演じたヴァイオレット・マックグローの可愛さで乗り切った印象。
ヴァイオレット・マックグローは『M3GAN/ミーガン』にも出演していましたが、可愛いし上手いですね。
『M3GAN/ミーガン』の製作は本作の約2年後ですが、成長も窺えます。
どちらもちょっと親がポンコツでかわいそうな子ども役で、不憫。
本作の内容に戻ると、ヒトコワとオカルトの両要素が混ぜ込まれてハイブリッド作品になっていたところは面白かったです。
親子や家族の絆よりも、霊 vs. ヤンデレという女性同士の異次元対決作品だった感も。
ヒトコワ要素のサマンサの目的は、とにかくジェフと2人で暮らしたかったのでしょう。
そのためにはアナフィラキシーショックの事故を装ってジェニーまでも殺そうとしたところは、なかなかの鬼畜。
そこまでジェフに惚れた理由はあまり語られませんでしたが、どちらかというとジェフの才能に惚れ込んでいた感じでした。
しかもそれを「私が引き出した」と言っていたので、思い込みが激しい人物であるのは間違いありません。
オカルト要素に関しては、ジェニーの妄想あるいはイマジナリーフレンドと思わせておいて、まさかの本当にマギーの霊。
しかしそれだけではなく、あの軟体ピエロとか人形たちが動いていたのも結局何だったのですかね。
軟体ピエロも霊マギーも、造形が芸術的すぎて、怖いというより美しさを感じてしまいました。
軟体ピエロは動きも良い。
個人的な仮説としては、ジェニーの妄想とマギーの恨みが絡み合った結果が本作の現象だったのかな、と思います。
怪物人形たちは、孤独なジェニーの友達でした。
マギーの死によってジェニーの空想世界への逃避がさらに強まり、彼らが実体化。
その中にマギーの魂?霊?も紛れ込んだ、というイメージです。
霊マギーの行動原理は、ジェニーの敵を排除しようとしていたのでわかりやすい。
一方、めちゃくちゃ謎なのが軟体ピエロですが、上述した仮説だと少し説明がつきやすくなります。
ラストシーンではハッピーエンドと見せかけて、エンドロールの合間では、軟体ピエロがジェニーの部屋に入り込んでくるシーンが挟まれていました。
友好的というよりは、不穏な雰囲気。
ホラー定番のあまり意味のない不穏エンドかもしれませんが、軟体ピエロがジェニーによってイマジナリーフレンドの具現化として誕生したのだとすると、父娘の関係性改善によって、彼はもう用無しになってしまったことになります。
勝手に生み出しておいていらなくなったら捨てられた彼が、ジェニーを恨んで部屋に侵入してきた可能性が一つ。
もう一つは、マギーの負の側面を体現するのがあの軟体ピエロだったとも考えられます。
正の側面は、恐ろしくもジェニーを守ろうとしていた霊マギー。
一方、いきなり殺された彼女の無念や恨みが具現化したものが軟体ピエロ。
霊マギーはジェフとの和解によって消え去りましたが、負の感情は残り続けていた、という解釈。
マギーの心もseparationしていたということですね。
さらにあるいは、大学時代の同級生でやり手の経営者コナーが言っていた通り、「消えたフリをして反撃の機会を探して」いたのかもしれません。
ジェニーとジェフが家の屋根裏から落下した際、最初に窓の外側に落ちたジェニーは何かに引っ張られたようにも見えました。
あれがもしマギーの仕業だとすると、結局ジェフを認めてはいないことになります。
一旦は消えたと見せかけて、マギーの負の側面の象徴である軟体ピエロがジェニーを攫いに来た、とも考えられます。
と、色々と想像できなくもありませんが、どれにしてもいまいちすっきりしない感も。
やはり、そもそもがどうにもハッピーエンドに思えないところも大きいでしょう。
根は頑張り屋さんなジェフの、父親としての成長を願います。
コメント